時候
夏(なつ)【九夏 三夏 島の夏 夏の寺 夏の宮 朱夏 炎夏 夏場 炎帝】
夏の人空手来りて空手去る 高野 素十
霧ちぎれちぎれて夏の風となる 上島 顕司
立夏(りっか)【夏に入る 夏立つ 今朝の夏 夏来る】
山に雨少し降りゐる立夏かな 戸井 文雄
筍のすっくと夏に入りにけり 倉田 紘文
五月(ごがつ)【五月来る 聖五月 五月尽】
民宿の床に兜や五月来る 村尾 梅風
葉煙草の五月の空に葉を重ね 益永 百代
初夏(しょか)【はつ夏 孟夏 夏始】
戸隠へ切符二枚や初夏の旅 武石 花汀
夏浅し青きドレスの演奏者 田中 美代子
卯月(うづき)【花残月 夏初月 卯の花月】
一壷あり卯月曇の空映し 若林 北窗
三姉妹卯月の宵を少女めき 佐々木 美乎
夏めく(なつめく)【夏きざす】
夏めいて花の時計の廻るかな 岡本 求仁丸
夏めくや男結びの白の帯 篠原 美加英
薄暑(はくしょ)
一塔の風鐸高し薄暑来る 佐藤 峻峰
遠く来て額づく友の墓薄暑 古賀 三春女
麦の秋(むぎのあき)【麦秋】
行商の畦に荷を解く麦の秋 岡田 玉水
麦秋の暮れる煙の二つ三つ 小野 茂川
六月(ろくがつ)
六月の空高々と神の杉 都甲 憲生
六月や沼に花なき少林寺 上田 俊二
皐月(さつき)【早苗月 たぐさ月】
短夜(みじかよ)【明易し 夏の朝 明早し 明急ぐ 短き夜】
短夜の机に並ぶ女かな 射場 秀太郎
白秋も啄木も夢明易し 倉田 紘文
入梅(にゅうばい)【梅雨に入る ついり】
梅雨入りの暗きに観世音菩薩 瀬戸 十字
天水に頼れる島の走り梅雨 工藤 芳久
梅雨(つゆ)【梅雨 黴雨 梅雨寒 梅天 梅雨曇 梅雨空 青梅雨】
今宵また梅雨の炬燵に火を入るる 橋爪 巨籟
一枚の梅雨の瓦の雨跳ぬる 倉田 紘文
五月雨(さみだれ)【五月雨 さみだるる】
就中おん蒔柱五月雨るゝ 高野 素十
石人に吾に一日さみだるゝ 工藤 信子
空梅雨(からつゆ)【早梅雨】
空梅雨の空にありたる鷹ヶ峯 三浦 つき子
空梅雨の庭に乾きし石の影 小野 紫邦
五月闇(さつきやみ)
一灯の端島灯台五月闇 森山 抱石
句の友に歩みおくれて五月闇 北村 桂子
夏の朝(なつのあさ)
鉄棒に下り健康夏の朝 森 竜南
肌ふるゝ風新しき夏の朝 佐藤 佳津
夏至(げし)
一人旅故のつれづれ今日は夏至 金井 綺羅
ビル陰に薄っぺらなる夏至の月 塚田 采花
暑さ(あつさ)【暑 暑気 暑き日 暑き夜 暑苦し】
坑外は暑し坑内尚暑し 河原 比佐於
暑き日の續かぬ北のオホーツク 柏倉 文子
七月(しちがつ)
七月の少女の産毛金色に 芦川 巣洲
妻の忌の七月七日もう真近か 足立 刀水
水無月(みなづき)【風待月】
一女あり青水無月の鏡拭く 坂口 かぶん
境内を掃いて水無月祓ひ待つ 井上 たか女
半夏生(はんげしょう)【半夏 半夏水】
迷ひ出し昼の鼬や半夏生 小松 虹路
裏切りし人を哀れみ半夏生 赤羽 岳生
涼し(すずし)【朝涼 夕涼 晩涼 夜涼 涼気 涼しさ 風涼し 庭涼し】
大杉が守る榛名の宮涼し 荒川 八重子
病む妻の眸涼しく頷きし 野川 枯木
露涼し(つゆすずし)【夏の露】
高原といふ円さあり露涼し 林 糺苑
ルビーてふ葡萄の房や露涼し 千本木 早苗
夏の夕(なつのゆう)【夏夕 夏夕日 夏の暮】
イヤリングはずし女の夏の夕 上田 千穂子
連なりし京の山々夏夕べ 吉田 澄子
夏の夜(なつのよ)【夜半の夏】
夏の夜の鞦韆幼な心して 桝本 澄子
ジプシーの丘踊り子の夏の夜 溝口 直
燈涼し(ひすずし)【夏の燈】
多摩川を渡る電車の灯の涼し 本田 洋子
夏の燭灯し一管奏さるゝ 内田 愛子
盛夏(せいか)【夏旺ん 真夏 夏の盛り】
雲しかと止まりてあり盛夏かな 上田 俊二
極暑(ごくしょ)【酷暑 大暑 三伏】
きさゝげの実の垂れてをる大暑かな 丹羽 玄子
病む兄のこころもとなき大暑かな 大山 百花
土用(どよう)【土用入 土用明】
照りもせず降りもせず今日土用入り 毒島 忠孝
土用明けたる古里の海を見に 秋畑 まきこ
熱帯夜(ねったいや)
一卓を旅に囲みし熱帯夜 篠崎 代士子
中天に赤き月あり熱帯夜 川崎 ヒデ子
秋近し(あきちかし)【秋待つ 秋迫る 来ぬ秋】
風たちて岡城に秋近しとも 松下 義幸
過ぎしこと水に流して秋を待つ 南雲 糸虫
夜の秋(よるのあき)
一と雨のありて山家の夜の秋 佐藤 梧林
夜の秋の長き廊下を人来たる 石塚 秋竹女
晩夏(ばんか)【夏深し 季夏 晩夏光 夏の果 行く夏 夏終る】
汽車動き晩夏の空の動き出す 上島 顕司
行く夏の祖谷に二つのかづら橋 榎本 善子
天文
卯の花腐し(うのはなくだし)【卯の花降し】
山の炉の燃ゆる卯花腐しかな 江本 如山
みちのくの卯花腐し雪まじり 本田 空也
南風(みなみ)【南吹く 正南風 大南風 はえ 南風】
みんなみに海ありて大南風吹く 澤 ゑい
裁断の布ひるがへし南風吹く 藤垣 とみ江
青嵐(あおあらし)
大太鼓打てば忽ち青嵐 秋月 城峰
発掘の弥生の畦や青嵐 近澤 杉車
風薫る(かぜかおる)【薫風 風の香 南薫】
薫風や只自らを顧みし 倉田 素直
一様にゆれて梢や風薫る 田ノ口 新
雹(ひょう)【氷雨 ひさめ 雹転ぶ 雹叩く】
青葡萄おそひし雹のおそろしき 上田 芳子
芋の葉を打ち破りたるひさめかな 森松 和子
五月晴(さつきばれ)【梅雨晴】
探しもの不意に出てきし五月晴 甲斐 つる子
五月晴の障子を開けし御堂かな 宮本 旅川
虎ヶ雨(とらがあめ)【曾我の雨】
扇山ぬれて美し虎ヶ雨 福田 玉函子
富士の雪解(ふじのゆきげ)【雪解富士】
くっきりと富士の雪解の縞模様 岡野 やす子
纏ひゆく三保の松影富士雪解 溝俣 炬火
夏霞(なつがすみ)
おろがみし神の三輪山夏霞 梧桐 青吾
夏霞女櫛山は遠くやさしけれ 佐藤 千兵
白夜(はくや)【びゃくや】
オランダの白夜スイスの白夜かな 成瀬 千代
暮れおそしおそしと白夜楽しみぬ 中島 藤女
梅雨明(つゆあけ)【梅雨あがる 梅雨のあと 梅雨果つ】
梅雨明の畳上げたる一夜庵 藤田 静古
湖に残りし濁り梅雨明くる 松下 芳子
雲の峰(くものみね)【入道雲 積乱雲 夕立雲 峰雲 夏雲】
雲の峰風を孕みて網乾く 福島 鼓調
夏雲に置いてゆかれしアドバルン 栗原 昌子
雷(かみなり)【らい 神鳴 いかづち 雷鳴 雷神 遠雷 落雷 雷雨 日雷
はたた神 鳴神 朝の雷 夜の雷 はたたく】
雷の止みてなほ雨降り続く 吉野 長慎
機町の機音とめしはたたがみ 宮木 きわ子
夕立(ゆうだち)【ゆだち よだち 白雨 夕立雲 夕立風 夕立晴 夕立前】
大夕立来るらし由布のかき曇り 高浜 虚子
飛石にぶつかりをどる白雨かな 松沢 みさ女
虹(にじ)【朝虹 夕虹 虹の橋 雲の虹 虹立つ】
葉たばこの村を大きく虹渡り 岡本 求仁丸
夕虹の下より農夫現われし 坂本 鬼灯
雲海(うんかい)
雲海の中の日輪動き初め 竹崎 紫泉
雲海に浮いて寝釈迦の在します 円仏 美咲
円虹(まるにじ)
円虹や眼下に峯の影のびて 本多 勝彦
御来迎(ごらいごう)【御来光】
見つめ待ちをる御来迎遂になく 斎藤 幸一
夏の月(なつのつき)【月涼し】
夏の月見ゆる公衆電話かな 赤木 範子
美しき想ひ出ばかり夏の月 天野 貞枝
朝曇(あさぐもり)
一ところ海が眩しく朝ぐもり 加藤 斐子
日盛(ひざかり)【日の盛り】
日盛りの水辺ばかりに蝶とんで 薗田 秀子
日光の東照宮も日の盛り 岡本 武三
炎天(えんてん)【炎日 炎天下 炎昼】
炎天の空へ伸び立つ藤の蔓 青山 冬至
炎天や別れてすぐに人恋ふる 稲田 眸子
片陰(かたかげ)【日影 片かげり】
蔵町を蔵の片陰沿ひに行く 梁川 たけし
片陰をありがたがって日雇女 米沢 和子
西日(にしび)【西日の矢 西日中 西日さす 西日落つ 大西日】
浴室の西日さしこむ明り窓 中屋敷 久米吉
赤松の幹の四五本大西日 工藤 芳久
夕焼(ゆうやけ)【ゆやけ 夕焼雲 夕焼空 夕映】
夕やけて潮のみち来る河口かな 近藤 紀代女
大窓に夕焼うすく淋しき日 伊津野 静
夕凪(ゆうなぎ)【朝凪】
夕凪の豊後に豊後風土記あり 藤 小葩
朝凪に潜りし鳥の離れ浮く 近藤 うめこ
旱(ひでり)【旱天 旱魃 大旱 旱星】
水やれば音たてゝ吸ふ旱畑 千本木 溟子
石投げて石の音する旱谷 新島 艶女
喜雨(きう)【雨喜び 喜雨煙る 喜雨の田 喜雨の夜】
ふるさとの喜雨の山王村役場 高野 素十
その辺のもの音たてて喜雨となり 頓所 八重子
夏の雨(なつのあめ)
うすうすと山重なりし夏の雨 遠入 たつみ
やみさうもなき空見上げ夏の雨 岩崎 すゞ
黒南風(くろはえ)【白南風】
黒南風や西瓜のつるの裏返る 藤井 乃婦
白南風の野の放牛のけふ多し 笹原 耕春
地理
卯浪(うなみ)【卯月浪】
大土佐の七浦に立つ卯浪かな 森光 兎喜恵
戻りにも卯浪の浜へ廻りけり 関谷 又三郎
出水(でみず)【夏出水 梅雨出水 洪水 鉄砲水 出水川 水害 水禍 冠水田】
仲々に引かぬ出水の上を蝶 秋畑 まきこ
一村の墓流したる出水かな 加藤 斐子
代田(しろた)
一枚の夕べの月の代田かな 岡本 求仁丸
一枚の代田に水のゆき渡る 高山 日出夫
植田(うえた)【早苗田 五月田】
吹かれつゝ植田となりしばかりかな 西山 昌子
ほつほつと植田のふゆる仏道 安藤 立詩
夏の川(なつのかわ)【五月川 夏川 夏河原】
湖にはじまる流れ夏の川 武石 花汀
もたれたる手摺の下の夏の川 大谷 孝子
夏野(なつの)【卯月野 五月野 青野 夏野道】
絶えず人いこふ夏野の石一つ 正岡 子規
昨日より今日を大事に夏野ゆく 久木原 みよこ
皐月富士(さつきふじ)【五月富士】
描きかけてありし画板の皐月富士 渋谷 松月
青田(あおた)【青田面 青田時 青田晴 青田風 青田道】
青田風吹く一村の大藁屋 吉光 久馬
青田風はいる仏間の灯のゆるる 後藤 ヨシ江
夏の山(なつのやま)【青嶺 夏山 遠青嶺】
戸田といふあの夏山の裏は飛騨 橋爪 巨籟
夏山の上に夏山玖珠に入る 大隈 伊津子
雪渓(せっけい)【クレバス】
雪渓を渡りて神の山近し 富川 敬三
別山の大雪渓に月かゝる 宮本 とよ
滝(たき)【瀑布 飛瀑 滝壷 滝風 滝音 滝しぶき 滝道 男滝 女滝】
滝じめりしてどの石もどの石も 秋山 万里
ふり仰ぐ身に冷え冷えと滝の風 清水 きよ子
泉(いずみ)【泉湧く 泉溢る 泉奏ず 泉川】
水晶の如くに湧きて泉かな 内田 じすけ
旅人の手を浸しゆく泉あり 丸山 麻子
清水(しみず)【山清水 岩清水 苔清水 真清水 草清水】
清水汲む神に祈りし両の手で 樋口 玄海児
玉垣の中より神の岩清水 藤田 静古
滴り(したたり)【涓滴】
滴りの一千年の一つづつ 宮崎 寒水
さがりたる細根をつたひ滴れる 久垣 大輔
田水湧く(たみずわく)【田水にえる】
駅よりの道ひとすじの田水沸く 水本 石草
恙なき暮らし日々田水沸く 下硲 紀子
日焼田(ひやけだ)【旱田】
遅々として日焼田の穂の出揃はず 都甲 康枝
旱田の水口に佇ち畦に佇ち 堅田 春江
赤潮(あかしお)【くされ潮 苦潮】
風にとぶ大赤潮の波頭 澤 草蝶
赤潮に又一人来て拱ねきし 佐田 かずえ
夏の海(なつのうみ)【夏海 夏潮】
夏潮の今退く平家亡ぶ時も 高浜 虚子
夏海に天の橋立伸びきりし 金丸 希骨
土用浪(どようなみ)
表より裏より島の土用浪 谷口 三居
向ひ来る真っ暗がりの土用浪 橋本 遊子
人事
メーデー(めーでー)五月一日【労働祭】
メーデーや親子二代の炭坑夫 河原 好枝
メーデーもストもよそごと一人縫う 細井 セツコ
憲法記念日(けんぽうきねんび)五月三日
自由ありけふは憲法記念の日 原山 英士
端午(たんご)五月五日【五月の節句 菖蒲の節句 菖蒲の日 初節句 重五】
故郷は端午の節句チロル行く 須藤 一枝
老いてなほ子に従はず菖蒲酒 橋本 對楠
武者人形(むしゃにんぎょう)【五月人形 冑人形 菖蒲人形 武具飾る 馬具飾る 飾冑】
み仏に並びて灯す武者飾 中嶋 昌子
男には男の掟武具飾る 長谷田 義人
幟(のぼり)【五月幟 外幟 内幟 座敷幟 神幟 初幟 幟竿 幟杭 幟飾る】
晴れ渡る幟を仰ぎ空仰ぎ 吉光 久馬
静けさの戻る幟を立て終へて 斉藤 幸一
吹流し(ふきながし)【吹貫】
吹流し遠くの街のひらひらす 友草 寒月
鯉幟(こいのぼり)【五月鯉】
鯉のぼり杉山の杉立ちならび 小田部 杏邨
五月鯉上り山里明るくて 後藤 緒峰
矢車(やぐるま)
雨を呼ぶ嵐に矢車廻る廻る 大江 朱雲
矢車の少し戻りて止まりけり 斎藤 萩女
菖蒲葺く(しょうぶふく)【軒菖蒲 菖蒲挿す あやめ葺く 菖蒲刈る 菖蒲引く 蓬葺く】
深熊野の弓矢の神に菖蒲葺く 山川 喜八
六月の菖蒲を葺いて飛騨路かな 成瀬 千代
粽(ちまき)【茅巻 粽結う 笹粽 菅粽 葦粽 菰粽 飾粽 飴粽】
小さき蝶は二枚重ねて粽結ふ 吉田 立冬子
亡き母の仕草を真似て粽結ふ 川口 厚子
柏餅(かしわもち)
一人居の母を慰さむ柏餅 衛藤 芙代子
帰省子の言葉少なし柏餅 岡 和子
菖蒲湯(しょうぶゆ)【菖蒲風呂】
うすみどり色に染りて菖蒲の湯 金丸 希骨
旅の日の二日おくれの菖蒲風呂 平山 愛子
子供の日(こどものひ)五月五日
三越も大丸も今日子供の日 山本 二千
空港に子供の多し子供の日 佐久間 道子
童話祭(どうわさい)五月五日・童話作家久留島武彦の生地大分県玖珠町にて行われる童話のお祭
デンマーク市長の式辞童話祭 千葉 大行
玖珠の子となりし孫つれ童話祭 渡辺 彦陽
薬の日(くすりのひ)五月五日【薬狩 薬採 薬草摘 百草摘】
薬園の名札消えゐて薬の日 野田 武
薬玉(くすだま)【長命縷】
母の日(ははのひ)五月の第二日曜日
母の日や明治の母の偲ばるる 吉光 久馬
子の電話待ちつゝ母の日の暮るゝ 吉本 信子
夏場所(なつばしょ)【五月場所】
川風に夏場所近きふれ太鼓 羽生 大雪
夏場所のテレビを囲み湯治客 新島 艶女
祭(まつり)【夜宮 宵宮 宵祭 山車 地車 神輿 樽神輿 御旅所 渡御 舟渡御 祭舟 祭礼 祭前
祭あと 祭獅子 祭笛 祭太鼓 祭囃 祭笠 祭提灯 祭町 祭衣 祭見 祭髪 祭客 祭宿】
かはりなき小さき町の祭かな 小野 茂川
白髪のまま結ひ上げし祭髪 松尾 久子
葵祭(あおいまつり)五月十五日【賀茂祭 北祭】
地に落ちし葵拾ひぬ加茂祭 円仏 美咲
飾りある葵祭の御所車 吉田 ひで
鴨川踊(かもがわおどり)四月十五日から三十日間もしくは四十五日間
踊の灯二つ灯りて葛川 浜岡 延子
練供養(ねりくよう)五月十四日【来迎会 迎接会 曼荼羅会】
安居(あんご)陰暦四月十六日から七月十五日まで【夏行 夏籠 夏安居 雨安居 前安居 中安居
後安居 夏入 結夏】
本山に起居四日の雨安居 尼子 凡女
夏行果つ我に我が道これよりは 真鍋 蕗径
夏花(げばな)【夏花摘】
一本の竹麻一夏の花として 池田 歌子
かたまりて草藤といふ夏花かな 西村 きぬこ
夏書(げがき)【夏経】
天平の佛の前の夏書かな 若林 北窗
心経に無の字の多き夏書かな 松田 トシ子
西祭(にしまつり)五月第三日曜日・京都車折神社
船芝居(ふなしばい)【柳川水天宮祭 船舞台】
旅人に一と幕ありし舟芝居 松田 トシ子
子役出て雨に手をのべ船芝居 上田 花勢
競馬(けいば)【競べ馬 競ひ馬 賀茂競馬 足揃え 勝馬 負馬】
競渡(けいと)【ペーロン】
ペーロンやいよいよ白き雲を置き 山内 傾一郎
ペーロンや銅鐸打ち鳴らす大男 松本 あや子
竹植う(たけうう)【竹酔日 竹移す】
竹酔といふ日のありて竹を植う 菅 直桑
竹植うる一句を床に急雨亭 佐藤 欽子
御田植(おたうえ)【御田祭 御田 神植】
御田植に虹のかゝりしめでたさよ 小野田 洋々
御田植の牛の腹帯汚れなし 香月 房子
鞍馬の竹伐(くらまのたけきり)六月二十日・京都鞍馬寺【竹伐 鞍馬蓮華会】
鬼灯市(ほおずきいち)七月九、十両日・東京浅草観世音【四万六千日 千日詣】
風吹いて鬼灯市の鈴のなる 上田 芳子
山巡る四万六千日行者 真鍋 蕗径
野馬追(のまおい)七月十一、十二日・福島県相馬【相馬野馬追 野馬追祭】
野馬追や子馬をかばひ行くもあり 三浦 光鵄
山開(やまびらき)【富士の山開】
戸隠に雷一つ山開 串上 青蓑
山のものばかり供えて山開 天沼 茗水
富士詣(ふじもうで)【富士行者 影富士 富士講 お頂上 お鉢廻り】
富士詣了し米寿の山翁 寺田 コウ
峰入り(みねいり)
清浄に峰入口の掃かれあり 山崎 朝日子
ちょとかむる峰入笠の涼しさよ 小松 虹路
川開(かわびらき)【両国の川開】
鮎川の王子の前の川開き 洞口 亀楠
閻魔詣(えんままいり)七月十六日【閻魔祭 十王詣 閻王】
線香の燃えてをりたる閻魔かな 若林 北窗
祇園祭(ぎおんまつり)七月一日から二十四日まで・京都八坂神社【祇園囃 祇園会 宵山 鉾立 鉾町】
一泊の祇園祭の祗園かな 金井 綺羅
高々と立ちて長刀鉾となる 矢津 羨魚
天神祭(てんじんまつり)七月二十五日・大阪天満宮【天満祭 船祭 神輿船 鉾流し どんどこ舟】
祭舟待つ間の巫女のかたまれる 小松 虹路
御祓(みそぎ)陰暦六月または陽暦七月の晦日【夏越の祓 六月の祓 御祓川 晦日祓 夏祓】
明日よりは七月となる祓かな 成瀬 千代
神の灯のみな灯されて夏祓 藤井 乃婦
形代(かたしろ)【贖物】
恐ろしやわが形代の流れゆく 本岡 歌子
形代の名の仮名文字のいとけなき 松尾 立石
茅の輪(ちのわ)【菅抜 菅貫】
大前に結ひしばかりの大茅の輪 瀬戸 十字
静かなる中日の茅の輪くゞりけり 後藤 栄生
チャグチャグ馬っ子(ちゃぐちゃぐうまっこ)
チャグチャグの馬行く先へ先へ蝶 佐々木 小夜
蝉丸忌(せみまるき)陰暦五月二十四日【蝉丸祭】
蝉丸忌木蔭の深くなりにけり 坂本 鬼灯
北里柴三郎忌(きたざとしばさぶろうき)六月十三日
草刈りし北里信子北里忌 穴井 研石
里人にあまり知られず北里忌 丸山 法子
更衣(ころもがえ)
大原女の大矢絣に更衣 高野 素十
病床の夫の衣を更へにけり 石原 すみ子
袷(あわせ)【素袷 初袷 絹袷 古袷 袷時】
初袷仕立て祝にはべらばや 佐藤 ともえ
胸合はす袷に軽き旅心 小野 武子
セル(せる)
出迎へのセルを召されし夫人かな 赤羽 岳王
逢ふことの遂になかりしセルたゝむ 野崎 静子
夏衣(なつごろも)【夏物 夏著】
奉納の巫女の舞ひゐる夏衣 上原 信子
たまさかの出会ひ嬉しき夏衣 福島 悦子
単衣(ひとえ)【単物】
風はらむ単衣の袖の軽さかな 山本 幸代
母の忌や母の形見の単衣着て 森田 雪子
夏服(なつふく)【白服】
夏服の米寿の人と喜寿の人 外園 タミ女
夏服に変へ口紅の色も変へ 吉田 慶子
夏羽織(なつばおり)【絽羽織 紗羽織 麻羽織 薄羽織】
生きがたみ伯母にいたゞく夏羽織 嶋川 ミサオ
夏帽子(なつぼうし)【夏帽 パナマ帽 麦稈帽 経木帽子 藺帽子】
藺帽子の主の曰く万事了 高野 素十
混血の眉目秀でし夏帽子 勝山 呉泉
夏襟(なつえり)【夏衿】
泣きくづれたる夏衿の白さかな 野崎 静子
夏衿や紅引くだけの夕化粧 浅田 伊賀子
夏帯(なつおび)【単帯 一重帯】
夏帯を解き放ちしは恋の夢 下硲 紀子
夏帯をしっかと締めて第二日 神原 かづ子
夏袴(なつばかま)【単袴 絽袴 麻袴】
夏袴つけたる僧のみえられし 青山 友枝
夏手袋(なつてぶくろ)
一日の夏手袋の汚れ易す 浜川 穂仙
夏手袋して個展のテープ切る 橋本 對楠
夏足袋(なつたび)【単足袋】
夏足袋を吊せし湯女の二階かな 杉 千代志
白足袋の暑中稽古や鞍馬寺 小中 勿思
羅(うすもの)【うす衣 軽羅 綾羅】
羅を着てお点前の美しく 石川 梨代
羅の裾ひるがへし不倖 岩坂 三枝
上布(じょうふ)【薩摩上布 越後上布】
しづかなるたちゐの上布好もしき 遠入 たつみ
みちのくの思ひ出淡き旅上布 河野 みつの
芭蕉布(ばしょうふ)
芭蕉布を着ておまゐりの二人かな 城戸崎 松代
帷子(かたびら)【白帷子 黄帷子 染帷子】
帷子は北山杉の藍模様 宮崎 寒水
窯元の老主帷子涼しげに 真柄 嘉子
浴衣(ゆかた)【貸浴衣 染浴衣 古浴衣】
独り身の派手な浴衣もまだ似合ひ 平田 節子
砂風呂の湯女の浴衣の袖みじか 刈谷 千代
晒布(さらし)【晒 奈良晒 晒川】
甚平(じんべい)【甚兵衛】
甚平になほして母のものを着る 須藤 一枝
物干に子の甚平のゆれてゐし 松藤 三鶴
汗袗(あせとり)
網襦袢(あみじゅばん)
汗手貫(あせてぬき)
脱ぎおきて風にころがる汗手貫 串上 青蓑
ハンカチーフ(はんかちーふ)【汗拭 汗手拭 汗巾 ハンカチ】
水色の旅のハンカチ洗ひおく 吉村 敏子
新しきハンカチに替へ朝拝す 吉田 隆子
白靴(しろぐつ)
白靴の歩みそろひし修道女 田島 魚十
お揃ひの白きサンダル双生児 斎藤 夏子
腹当(はらあて)【腹掛】
幼な子に腹当締めて引揚げし 佐竹 たか
いとけなき姉となりけり腹当し 竹田 佳女
夏座布団(なつざぶとん)【麻座布団 藺座布団】
あたらしき夏座布団に招じられ 諸橋 草人
俳諧の夏座布団の十余枚 中村 志ま
革布団(かわぶとん)【革座布団】
広縁を立ちたる後の革布団 中畠 ふじ子
百人の大宴席や革布団 門岡 一笑
夏蒲団(なつぶとん)【夏衾 麻蒲団】
夏蒲団一枚重ね山の宿 谷村 喜美子
夏布団衿掛けなほし人を待つ 八崎 菊江
青簾(あおすだれ)【簾 葭簾 竹簾 伊予簾 絵簾 板簾 玉簾 古簾 簾売】
この部屋に母のゐまさぬ青簾 大江 ちよ子
慎ましき暮しに古りし伊予簾 中川 和喜子
葭簀(よしず)【葭簀茶屋 葭簀小屋】
村役場葭簀を立てゝ事務を執る 佐々木 美乎
あをあをと日本海や葭簀茶屋 鈴木 康永
葭戸(よしど)【簀戸 葭屏風】
やはらなる風のゆきゝや葭屏風 堀谷 鋭子
葭障子(よししょうじ)
文机と硯箱のみ葭障子 経谷 一二三
彩色は女の仕事葭障子 新山 武子
籐椅子(とういす)【籐寝椅子】
星の話などして船の籐椅子に 千本木 溟子
浜茶屋の佐渡へ向けある籐寝椅子 加藤 たかし
衾外す(ふすまはずす)【障子はずす】
ひろびろと襖はづして広座敷 山本 綾
障子はづして裏見通しの植田かな 田北 ぎどう
夏暖簾(なつのれん)【麻暖簾】
画かれし二匹の鮎や夏暖簾 北川 与志昭
夏のれん掛けたる日より夏の茶屋 金子 蜂郎
網戸(あみど)
網戸より見ゆるものみな網戸色 原田 耕二
夏館(なつやかた)
なつかしき八戸訛夏館 山本 忠壮
硫黄噴く山正面に夏館 米沢 和子
夏座敷(なつざしき)
放庵の耶馬の双幅夏座敷 佐藤 欽子
襖とり払い一人の夏座敷 山田 若菜
夏炉(なつろ)【夏炉焚く 夏炉燃ゆ】
一炉焚き一炉焚かれぬ大夏炉 江本 如山
旅人に脇本陣の夏炉かな 加藤 斐子
冷房(れいぼう)【ルーム・クーラー】
冷房の窓に触れをる芭蕉かな 東原 芦風
冷房の郵便局の窓に蝶 新野 祐子
扇風機(せんぷうき)
本堂の如来の前の扇風機 大江 ちよ子
マニキュアの指を扇風機にかざす 深見 道子
扇(おうぎ)【扇子 白扇 古扇 絵扇】
あらたまる心に持ちし扇かな 林 香翠
白檀の扇子の女と隣り合ふ 金沢 俊子
団扇(うちわ)【絵団扇 絹団扇 渋団扇 水団扇 古団扇 団扇掛】
父の句を母の書きたる団扇かな 河津 春兆
七人の子を眠らせし渋団扇 田上 良子
団扇張る(うちわはる)
へり取りのくるりくるりと団扇貼る 澤村 啓子
糊加減乾かし加減うちは貼る 近森 千句葉
花茣蓙(はなござ)【絵茣蓙 絵莚】
花茣蓙に母の逗留はじまりし 関 夫久子
花茣蓙の部屋に一夜の客となる 宮本 とよ
寝茣蓙(ねござ)【寝莚】
寝呉座して都会疲れの吾が子かな 佐竹 たか
土曜市草の匂ひの寝茣蓙買ふ 平野 山石
ハンモック(はんもっく)【吊麻 寝網】
アマゾンの土産手編みのハンモック 栗原 義人堂
ハンモック揺れゝば枝も星も揺れ 大平 喜代子
蒲莚(がまむしろ)
新嫁の里のもたらす蒲莚 三浦 まさゑ
お茶粥をご馳走になり蒲莚 串上 青蓑
日除(ひよけ)【日覆】
峙ちて立山近き日除かな 渡辺 池汀
日覆の下のテーブル皆白し 朝谷 又三郎
衣紋竹(えもんだけ)【衣紋竿】
衣紋竹僧の衣の吹かれをり 山田 静雄
かすかにも母の香のこる衣紋竹 松下 のぶ
簟(たかむしろ)【籐莚 竹莚】
池殿の簟にも誰か居し 横田 八重子
油団(ゆとん)
庭のもの青く映れる油団かな 浦辻 正逸
面影の遠くなりたる油団かな 吉村 敏子
円座(えんざ)
お写経の僧俗もなき圓坐かな 滝口 芳史
奥飛騨の一工房の円座かな 池上 秀子
籠枕(かごまくら)【籐枕】
二三行読めばうとうと籠枕 酒井 素女
耳の下風吹き抜ける籠枕 中畠 ふじ子
竹夫人(ちくふじん)【竹奴 抱籠 添寝籠】
ねむられぬ夜を重ねつゝ竹夫人 赤羽 岳王
竹床几(たけしょうぎ)
身じろげば何處かきしみて竹床几 松田 トシ子
冷蔵庫(れいぞうこ)
冷蔵庫明けて思案の夕支度 鈴村 寿満
黙し合うときに唸りて冷蔵庫 山崎 喜八郎
氷室(ひむろ)【氷室守】
氷の字二つに割れて氷室開く 松浦 沙風郎
日傘(ひがさ)【絵日傘 パラソル 砂日傘】
蓮池の向ふを妻の日傘来る 前山 百年
絵日傘の映りし水の美しき 本多 勝彦
編傘(あみがさ)【菅傘 台傘 網代傘 饅頭傘 藺傘】
御陵道おけさ編笠なども売る 村中 美代
饅頭笠一つ置きある寺の縁 谷 繁子
跣足(はだし)【素足 素跣 徒跣 跣】
土踏んで病知らずに跣足の子 木村 都由子
セイロンの物乞ふ子等の皆跣足 真柄 嘉子
裸(はだか)【素裸 丸裸 赤裸 裸人 裸子 裸仕事】
郷に入り郷に従ふ裸かな 本宮 鬼首
もたれゐる裸の男楽屋口 山田 静雄
肌脱(はだぬぎ)【片肌脱 諸肌脱】
寒山か拾得か肌脱ぎ給ふ 梅島 くにお
日焼(ひやけ)【陽灼け 潮灼け】
四五日の旅を語りて日焼して 小野 白湖
寝返りを大きく打ちし日焼の子 野田 迪子
噴水(ふんすい)【吹上げ】
噴水の穂の玉となり線となり 大隈 草生
噴水の崩るゝ如く止りけり 平野 竹圃
噴井(ふけい)【ふきい 噴井水】
一杓のありて涼しき噴井かな 酒井 素女
泉殿(いずみどの)【釣殿】
滝殿(たきどの)
露台(ろだい)【バルコニー ベランダ テラス】
病良き日はベランダに由布山を見る 河上 睦女
川床(ゆか)【川床 床涼み】
川床提灯映りて赤き流れかな 安藤 雅子
納涼(すずみ)【納涼 縁涼み 門涼み 橋涼み 夕涼み 宵涼み 夜涼み 土手涼み 磯涼み
納涼舟 涼み茶屋 涼台 涼む】
湯の滝に肩を打たせて涼みかな 田北 ぎどう
背を向けしまゝ話し居り涼み台 林 富佐子
端居(はしい)【夕端居】
端居して女に生れし事悔ゆる 森田 桂子
端居してこの頃涙もろき姉 出羽 智香子
打水(うちみず)【水撒 水を打つ】
打水や法衣をぬぎて母となり 尼子 凡女
撒水の庭に出てきし蝸牛 高木 冨美
撒水車(さっすいしゃ)
撒水車土の匂ひに咽せかへる 栗田 直美
行水(ぎょうずい)【昼行水】
行水の籬に掛かる女もの 玉置 仙蒋
日向水(ひなたみず)
大小の馬穴並べて日向水 森田 たえ
髪洗う(かみあらう)【洗い髪】
髪洗ふことより病ひ断ちしかな 佐藤 佳津
洗ひ髪孫のうなじの早や乙女 小野 武子
夜濯(よすすぎ)【夜の濯ぎ】
夜濯の音いつまでも島の宿 本岡 歌子
夜濯やシャンソンも好きジャズも好き 篠原 穂積
昼寝(ひるね)【午睡 三尺寝 昼寝覚 昼寝起 昼寝人 昼寝顔 昼寝時】
別院の三百畳に昼寝かな 宮本 旅川
学問に興うすき子の昼寝かな 小野 克之
外寝(そとね)
汐騒を聞きつ外寝や浜の宿 木村 いつを
暑中見舞(しょちゅうみまい)
遠き人ばかりに暑中見舞せん 佐藤 佳津
母老いし夏の見舞にありありと 菊池 輝行
虫干(むしぼし)【土用干 虫払 曝書 風入るる】
お虫干し有情無情の絵図掛けて 中井 ユキ子
一巻の二間貫ぬく曝書かな 合原 泉
晒井(さらしい)【井戸浚 井戸替】
浚ふ井の水神に先づ神酒注ぐ 高橋 向山
棲みつける小蟹つくばふ井を晒す 井手 芳子
溝浚へ(みぞさらえ)【川浚え 井手浚え】
溝浚へ済みし流れの速きこと 片倉 志津恵
川浚へして二三日水匂ふ 久木原 みよこ
蒼朮を焼く(そうじゅつをやく)【おけらやく】
やゝありて蒼朮匂ひそめにけり 千石 比呂志
蒼朮を買へば僧かと訊ねられ 打出 たけを
蝿除(はえよけ)【蝿帳 蝿叩 蝿取紙】
蝿帳をかぶせて遅き帰宅かな 指中 恒夫
分校の職員室の蝿叩 大隈 草生
蚤取粉(のみとりこ)
蚊帳(かや)【枕蚊帳 古蚊帳 青蚊帳 母衣蚊帳 蚊帳吊る 蚊帳の月】
暁や白帆過行蚊帳の外 正岡 子規
吊る蚊帳を珍らしと孫入り来る 林 富佐子
蚊遣火(かやりび)【蚊遣 蚊火 蚊遣木 蚊遣草 蚊遣粉 蚊取線香 蚊取香水
蚊火の宿 蚊ふすべ 蚊いぶし】
臥す吾に蚊遣火遠く遠くより 椎野 房子
梵妻の僧にもたらす蚊遣香 小林 正夫
蚋いぶし(ぶといぶし)
草刈の細き煙のぶといぶし 山中 真智子
よくヶ燻る女の腰の蚋いぶし 岡崎 芋村
毛虫焼く(けむしやく)
結界の毛虫や僧に焼かれけり 竹田 于世
毛虫焼く小使を子等遠まきに 藤田 静水
汗(あせ)【汗水 汗ばむ 玉の汗 汗の玉 汗みどろ 汗の粒 汗拭く】
三人の汗の男の石を切る 本岡 歌子
汗ふいて記憶の道をたどりゆく 百生 栄子
汗疹(あせも)【あせぼ 汗疾】
水虫(みずむし)
水虫を厭ひて跣足一教師 金山 有紘
水虫や強気の母の泣きどころ 吉川 喜美子
土用灸(どようきゅう)
足弱の妻をいたはり土用灸 奥田 草秋
土用灸すゑてもらひて退院す 谷口 かなみ
定斎売(じょうさいうり)【定斎屋】
毒消売(どくけしうり)
毒消売旅出の花火打ち上げて 前山 百年
無人駅毒消売の一人下車 有働 清一郎
暑気払い(しょきばらい)【暑気下し】
藍甕の藍に参らす暑気払ひ 谷崎 和布刈男
枇杷葉湯(びわようとう)
香水(こうすい)
一吹きの香水に旅はじまりぬ 渡辺 しづ
香水の好み変りてあやしまれ 榊原 弘子
掛香(かけこう)【匂い袋】
天瓜粉(てんかふん)
子の中の愛憎淋し天瓜粉 高野 素十
高這の児を追ひかけて天瓜粉 畑中 圓子
桃葉湯(とうようとう)
脚気(かっけ)
故郷へ便りこまめや脚気の婢 吉野 十夜
暑気中(しょきあたり)【暑さあたり 中暑】
むづかしき飲食このむ暑気中 五十嵐 象円
帰り来て旅の疲れの暑気中 河合 甲南
水中り(みずあたり)
夏痩(なつやせ)【夏負】
夏痩の骨にとゞまる命かな 正岡 子規
夏負に無縁の二人よく笑ふ 頓所 八重子
寝冷(ねびえ)【寝冷腹 寝冷子】
いつまでも青き顔して寝冷の子 上地 和子
コレラ(これら)
南方へコレラ接種をして錫に 山口 笙堂
赤痢(せきり)
瘧(ぎゃく)【おこり マラリヤ】
マラリヤの兵の遺言聞きもして 江本 如山
マラリヤの故に帰国を思ひ立ち 吉川 耕花
霍乱(かくらん)
日射病(にっしゃびょう)
麦藁籠(むぎわらかご)【麦稈籠】
遠のきぬ麦藁篭を編みし日も 新津 豊子
麦笛(むぎぶえ)【麦藁笛】
麦笛や四十の恋の合図吹く 高浜 虚子
せがまれて吹く麦笛の鳴らざりし 佐藤 由比古
草笛(くさぶえ)
水郷に生れ草笛みんな吹く 古賀 雁来紅
草笛を吹けば誰かが吹きかへす 野崎 静子
草矢(くさや)【草矢射る 草矢放つ】
試歩たのし草矢してまた草矢して 山崎 喜八郎
少年の草矢少女にとどかざり 栗田 直美
螢狩(ほたるがり)【螢見 螢見物 螢舟 螢売】
眠たがる子をあやしつゝ蛍狩 北川 与志昭
螢待つ闇を大きく闇つつむ 倉田 紘文
螢籠(ほたるかご)
螢籠さげて母子の道を行く 壷井 さえ子
瀬渡りの口にくはえて螢かご 松浦 沙風郎
夜市(よいち)
通りぬけて星の空ある夜市かな 幸 数限
夜店(よみせ)
売物の壷に銭入れ夜店守る 岩佐 たか
夜店の灯とぎれ踏切暗きかな 松浦 沙風郎
箱釣(はこづり)
箱釣にかくれ遊びの湯女二人 瀬戸 十字
起し絵(おこしえ)【立版古 立て絵 組立 切抜燈龍】
夏芝居(なつしばい)【五月狂言 土用芝居】
さし金の鬼火が二つ夏芝居 池谷 陶魚
語りべに市長も出でし夏芝居 松田 トシ子
水狂言(みずきょうげん)【水芸】
袴能(はかまのう)
涼み浄瑠璃(すずみじょうるり)
ながし(ながし)
風鈴(ふうりん)【風鈴売】
風鈴を売る店にだけ風通る 岡田 玉水
風鈴や二階借りして若夫婦 吉岡 秋青
釣荵(つりしのぶ)【吊忍 軒忍 釣荵】
稲妻の光の中の釣荵 藤井 紅子
一鉢のくらま荵を見舞はるゝ 吉田 秋水子
金魚売(きんぎょうり)【金魚屋】
金魚玉(きんぎょだま)【金魚鉢】
子供より母美しき金魚玉 大谷 おさむ
三匹が五匹に見えて金魚鉢 溝口 博子
箱庭(はこにわ)
箱庭に一の滝二の滝とあり 山川 喜八
水盤(すいばん)
作り滝(つくりだき)
作り滝夕月色を得つゝあり 山内 傾一路
庭滝に舞ひ上がりたる蝶々かな 加藤 斐子
水遊び(みずあそび)【水掛合 水試合 水合戦 水戦】
泣き笑ふしぶきの雨や水遊び 大神 幸巴
水鉄砲(みずでっぽう)
弟の生まれてうれし水鉄砲 米沢 和子
水鉄砲の筒先きわれに隣の子 足立 刀水
水からくり(みずからくり)【水機関】
浮人形(うきにんぎょう)
浮人形売って男の暮らしかな 小林 たか子
水中花(すいちゅうか)
縁日の尼僧買ふや水中花 金山 有紘
水中花昨日のまゝが悲しけれ 久本 澄子
花氷(はなごおり)【氷柱】
花氷向ふの妻の顔ゆがむ 茂野 六花
花氷五十路半ばはまだ惑ふ 松本 竜庵
船遊び(ふなあそび)【遊船】
船遊びマルコポーロの生家まで 山下 志信
遊船の三十艘のみな灯る 千葉 大行
ボート(ぼーと)【端艇】
ボート今波新しくいでゆきし 長田 八重
凪ぐ風を起してボート潔し 栗田 直美
ヨット(よっと)
動くとも見えでヨットの湖暮るゝ 森 ひろゑ
たぐらるる如くにヨットみな帰る 木路 きみ子
泳ぎ(およぎ)【水泳 遊泳 遠泳 競泳 水練 抜手 立泳ぎ 泳ぎ船】
泳ぎ子の潜れば小犬岸に鳴く 中 裕
口に目に飛び込む雨や競泳す 小川 背泳子
潮浴(しおあび)【海水浴】
車椅子漕ぎ来し友と潮を浴ぶ 高木 一水
波少しあるを喜び潮浴びる 谷口 君子
海水着(かいすいぎ)【水着 海水帽】
ミス水着準ミス水着姉妹 河崎 初夫
水着きる吾子の背中の大人びし 田島 富子
サングラス(さんぐらす)
サングラスかけてみたくて旅に出る 野崎 静子
サングラス見知らぬ町のごとく行く 本田 洋子
避暑(ひしょ)【銷夏 避暑地 避暑の宿 避暑客 避暑の旅 避暑便り】
夜もすがら人歩きをる避暑地かな 矢津 羨魚
描きかけの油絵ありぬ避暑の宿 加藤 和子
夏休(なつやすみ)【暑中休暇】
静かなるハイデルベルク夏休暇 山内 年日子
迷ひ来し仔猫のなつき夏休 刈谷 次郎丸
帰省(きせい)【帰省子】
帰省子にふる里の海見えて来し 山下 輝畝
帰省子にかかって来たる長電話 安藤 寿胡
林間学校(りんかんがっこう)【臨海学校】
登山(とざん)【山登 登山口 登山道 登山杖 登山笠 登山宿 登山小屋】
神の座の我が立山に登りけり 千石 比呂志
大杉を過ぐれば登山道となる 谷口 かなみ
キャンプ(きゃんぷ)【天幕 天幕村 キャンピング キャンプファイヤー テント】
川原石背中に痛きキャンプかな 堀 勇夫
湖の向かうのキャンプ村眠る 村中 美代
鵜飼(うかい)【鵜舟 鵜飼船 鵜飼火 鵜篝 鵜松明 鵜匠 鵜遣 鵜籠 荒鵜
疲鵜 放鵜 鵜縄 鵜川】
鵜飼見の舟に舟寄せ商へる 林 富佐子
灯を消して闇ひろがりし鵜川かな 森光 兎喜恵
火串(ほぐし)【照射】
のぼり潮くだり潮ある火串かな 米沢 和子
川狩(かわがり)【川干し 瀬干し 網打 毒流し】
川狩の終りし水を尚あるく 高瀬 初乗
夜振(よぶり)【夜振火 火振】
夜振の火折々高く燃え上がり 丸山 由子
漕いでゐて同じところに夜振舟 澤 草蝶
夜釣(よづり)【夜釣舟 夜焚舟 夜焚釣 夜焚】
つなぎある渡し舟より夜釣かな 橋本 遊子
耳遠き船頭とゆく夜釣かな 鈴村 寿満
釣堀(つりぼり)
夕河岸(ゆうがし)【昼網 昼市】
夕河岸の屋上屋に灯をともし 磯崎 緑
魚簗(やな)【簗 簗打 簗守 簗番 簗瀬】
釣り橋の下手にありて一の簗 芦沢 ふで
簗番のはや昼酒をしてをりし 高橋 卯木
鮎釣(あゆつり)【鮎狩 鮎掛 鮎の宿】
鮎釣りの竿の並んでまだ昏れず 滝戸 蓮
鮎宿に着きし頃より雨激し 井上 たか女
べら釣(べらつり)
岩ヶ根を湧き上りくるべらの潮 高瀬 初乗
ちぬ釣(ちぬつり)
ちぬ釣るとシャベル打ち立て虫を掘る 井手 芳子
鰹釣(かつおつり)【鰹船】
黒潮の中の一点鰹船 坂本 鬼灯
新妻と二十日の別れ鰹漁夫 谷崎 和布刈男
鯵売(あじうり)【夕鯵】
牡丹園(ぼたんえん)
遠山に残る雪あり牡丹園 佐藤 亜矢子
牡丹の園となりたる寺領かな 滝口 芳史
菖蒲園(しょうぶえん)
家康の世よりの庄屋菖蒲園 澤村 啓子
哲学の小径を下りて菖蒲園 大澤 三世木
蓮見(はすみ)【蓮見舟 蓮池】
急に夜の明けてきたりし蓮見かな 澤村 啓子
白き風走る蓮田の果ては海 工藤 芳久
黴の宿(かびのやど)
隠棲の雨漏多少黴多少 上田 花勢
一巻の系図を置きて黴畳 串上 青蓑
水見舞(みずみまい)
水見舞電話の遥かなる師より 山内 傾一路
筍飯(たけのこめし)【竹の子飯】
とびとびに三日筍飯の寺 滝口 芳史
早々と筍飯の届きけり 甲斐 月生
豆飯(まめめし)【蚕豆飯 豌豆飯】
娘の家へ泊めて貰ふて豆の飯 吉岡 秋青
母の炊く豆飯の豆柔かし 藤間 蘭汀
麦飯(むぎめし)
麦飯の好きな佛に麦の飯 羽野 蕗村
麦飯と云ふも全麦には非ず 山口 笙堂
鮓(すし)【圧鮓 握鮓 鮨 すもじ 一夜鮓 鮎鮓 鯛鮓 鯖鮓 笹鮨 早鮓 鮓圧す 柿の葉鮓】
手づくりの芹鮓開き湯治客 坪根 里杏
染付の皿鮎鮓の紅生姜 河野 伸子
干飯(ほしいい)
井戸蓋の上干飯篭干してあり 佐藤 梧林
水飯(すいはん)【洗飯 水漬】
水飯の句を拐童にさがしけり 笹原 耕春
妻が蒔く洗ひ飯待つ庭雀 三原 春風
飯饐る(めしすえる)
飯饐る何時も一人でする食事 石川 かほる
飯笊(めしざる)
飯笊の蓋をとぢたる斜かな 吉田 立冬子
胡瓜もみ(きゅうりもみ)
七年の濁りになれて胡瓜もむ 南雲 糸虫
冷し瓜(ひやしうり)【瓜冷す】
冷し瓜船場言葉のなつかしき 小松 虹路
乾瓜(ほしうり)
瓜漬(うりづけ)【胡瓜漬】
茄子漬(なすづけ)【浅漬茄子】
鴫焼(しぎやき)【茄子の鴫焼】
鴫焼や一男一女すこやかに 丹羽 玄子
梅干(うめぼし)【梅漬 梅干漬 梅干す 干梅 梅莚】
梅干すや庭にしたゝる紫蘇の汁 正岡 子規
桶の中人の声して梅漬くる 射場 秀太郎
冷索麺(ひやそうめん)
青竹の器にすがし冷そうめん 宗圓 あき
冷麦(ひやむぎ)【冷し麦】
合宿の子に冷麦の盛の良く 下城 宇良
冷奴(ひややっこ)【冷豆腐】
山寺の正方形の冷奴 北村 光阿弥
もてなしの客三日目の冷奴 織部 れつ子
冷汁(ひやじる)【冷し汁 煮冷し】
冷汁に青紫蘇うかし昼餉かな 松本 あや子
冷し紅茶(ひやしこうちゃ)【アイスティー】
しあはせの一杯冷し紅茶かな 麻生 直美
アイスティー暖かくなり君と居る 上島 顕司
冷し珈琲(ひやしこーひー)【アイスコーヒー】
真白きテーブルクロス冷し珈琲 岡松 あいこ
遠き日のアイスコーヒー二つかな 二階堂 英子
氷水(こおりみず)【削氷 夏氷 氷小豆 氷苺 氷レモン 氷ミルク ミルクセーキ
氷売 氷店 氷旗】
渓遊の草履も売りて氷店 佐藤 星雲子
道祖神ありし氷の小店あり 松浦 沙風郎
アイスクリーム(あいすくりーむ)【氷菓子 氷菓】
氷菓買う異国の銀貨数へつつ 田中 南耕
熱の子の氷菓舐めつつほゝゑめり 工藤 順子
ラムネ(らむね)【冷しラムネ ラムネ玉】
青空の目にしむラムネ飲みにけり 茂野 六花
向き合ひて恋めく卓やレモネード 本間 尚子
ソーダ水(そーだすい)【曹達水】
空港が待ち合はせ場所ソーダ水 本間 一萍
やゝ疲れおぼえて一人ソーダ水 百生 栄子
サイダー(さいだー)【冷しサイダー シトロン】
サイダーの氷鳴らして運ばるゝ 吉村 敏子
サイダーをのんで一息つきしかな 中井 ユキ子
麦酒(びーる)【生ビール 黒ビール 冷し麦酒 ビヤホール ビヤガーデン ビヤ樽】
ビールつぐ髪にハイビスカスを挿し 千原 瀟湘
ビール呑む男の持てる喉ぼとけ 佐藤 都
甘酒(あまざけ)【一夜酒 甘酒売】
泉岳寺前の甘酒うまかりし 荒巻 大愚
甘酒のとろりと熱し舌を焼く 曽我 鈴子
焼酎(しょうちゅう)【泡盛 甘藷焼酎 米焼酎 麦焼酎 蕎麦焼酎 粕取焼酎】
牧守の好きな焼酎手土産に 本田 菁爽
麦焼酎お国訛りのはづみをり 二階堂 英子
冷酒(ひやざけ)【冷酒(れいしゅ)】
冷酒を飲みても酔へぬ虚ろなり 山本 祐三
梅酒(ばいしゅ)【梅焼酎】
梅酒また主と共に古りにけり 秋山 万里
一日の疲れ直しの梅酒かな 真鍋 蕗径
蝮酒(まむしざけ)
蝮酒まはし木樵の五六人 本岡 歌子
とぐろ巻き瓶に沈めるまむし酒 長谷川 蕗女
水羊羹(みずようかん)
竹筒の水羊羹をすゝり食べ 金井 清子
店先に水やうかんと太き文字 杉山 喜代子
心太(ところてん)【石花菜】
いつも寄る仏の里の心太 香下 六子
ところ天すゝり妻にはさからはじ 富永 花鳥
葛餅(くずもち)
青笹にのせて葛餅やはらかき 池上 秀子
葛餅のガラス菓子器に異国めく 宗圓 あき
葛饅頭(くずまんじゅう)
葛饅頭少し片より固まりし 上田 立一呂
葛水(くずみず)
白玉(しらたま)【氷白玉】
白玉のしるこの中に紅一つ 中野 重一
白玉の冷めたくまろく亡母想ふ 泉 早苗
茹小豆(ゆであずき)【煮小豆】
蜜豆(みつまめ)
蜜豆や噂の人の遅れ来し 浅田 伊賀子
ピカソ展出て蜜豆の店に入る 安藤 雅子
振舞水(ふるまいみず)【水振舞 水接待】
志士旧居訪れ水を振舞はれ 福田 玉函子
麦湯(むぎゆ)
麦湯呑むガラスコップを頬に当て 戸田 利枝
飴湯(あめゆ)【飴湯売】
城茶屋の何處も混み合ふ飴湯かな 片岡 北窓子
吹いて飲む力あめ湯や登山宿 山田 聴雨
砂糖水(さとうみず)
歳時記に砂糖水ありなつかしき 佐々木 美乎
はったい(はったい)【むぎこがし 麦炒粉 はったいを練る】
はったいにむせつゝ人を恋ふるなり 羽野 蕗村
結願の媼三人麦こがし 若林 かつ子
氷餅(こおりもち)
茗荷汁(みょうがじる)
親しさの十二三人茗荷汁 澤 ゑい
台所不如意の時の茗荷汁 川原 みや女
夏料理(なつりょうり)
一卓にナポレオンあり夏料理 池谷 陶魚
月の出の待たるる海や夏料理 古賀 雁来紅
船料理(ふなりょうり)【船生洲 生簀船】
舟座敷ゆるるもたのし舟料理 大野 茅輪
生節(なまりぶし)【なまり 生鰹 なまぶし】
南国の土佐の生節太かりし 橋本 道子
生り節マニキュアとれぬ嫁の手に 甲斐 つる子
干鱧(ひはも)【五寸切 小鱧】
あらひ(あらい)【洗膾 生作り 洗鯉 洗鯛】
山の宿鯉のあらひを盛り上ぐる 斎藤みつこ
水貝(みずがい)【生貝】
背越(せごし)
沖膾(おきなます)
八重潮の真っ只中に沖膾 山川 喜八
魚屑を海に返しぬ沖膾 阿部 夕礁
泥鰌鍋(どじょうなべ)【泥鰌汁 柳川鍋】
二三日つゞけて夫に泥鰌汁 松本 ます枝
土用鰻(どよううなぎ)【鰻の日】
暁の灯に土用鰻の荷をつくる 中野 貴美子
土用蜆(どようしじみ)
人々に土用蜆のよろこばる 青山 友枝
醤油造る(しょうゆつくる)
新茶(しんちゃ)【走り茶】
そこここに新茶の幟宇治の町 田中 としこ
子に送る新茶を妻の惜気なく 野川 枯木
古茶(こちゃ)
きくとなく愚痴の聞き役古茶をのむ 中溝 八重子
話す事逢へば少なく古茶を呑む 甲斐 とくえ
風炉(ふろ)【風炉手前】
火の遠く畳の広し風炉手前 白石 時子
植木市(うえきいち)
植木市旅の吾等と先生と 吉野 十夜
女等の一日遊びし植木市 小園 末子
上蔟(じょうぞく)【あがり 上蔟団子 回転蔟】
上蔟や狭くなりたる庭を掃く 大川 波江
桑買ひに来て上蔟を手伝へる 古賀 三春女
繭掻く(まゆかく)【繭干す 繭籠】
繭繰りの繭ころころと重なれり 小野 菖菊
繭ごもり己を語ることもなく 川原 和子
繭買(まゆかい)【繭売る】
糸取(いととり)【糸引 糸取女 糸引女 糸取鍋 繭煮る 糸取車 糸取歌】
糸取の糸細かりし長かりし 藤田 静古
沸々と繭の煮えゐる真綿ひく 橋爪 靖人
苗売(なえうり)【瓜苗 胡瓜苗 瓢苗 糸瓜苗 茄子苗】
紅少し引き甲斐甲斐し苗売女 片岡 けん
メロン苗買ひに町まで小半日 撫養 チカ
苗植う(なえうう)【苗の手】
炭住の庭の苗の手それぞれに 森山 抱石
茄子植う(なすうう)
四五日の旅より帰り茄子植うる 大賀 賢子
茄子植ゑて一番花を心待ち 上田 幸子
豆植う(まめうう)【豆蒔く】
豆さしも農具の一つ豆植ゑる 瀬戸 きよ子
一雨に土やはらかに豆を蒔く 三栖 ひさゑ
甘藷植う(かんしょうう)【藷植う 藷挿す】
一の字に一の字に引き甘藷植う 山本 きぬ
暮るるまで後一仕事藷をさす 中村 志ま
罌粟掻(けしかき)
漆掻(うるしかき)
木から木へ村から村へ漆掻き 南雲 糸虫
漆の木裏表なく掻かれあり 高橋 卯木
袋掛(ふくろかけ)
袋掛済みしばかりの枇杷の里 山元 秀女
梨の葉のひらひら落つる袋掛 打出 たけを
蚕豆引(そらまめひき)
豌豆引(えんどうひき)
おほかたは女の仕事豌豆引く 池田 歌子
菜種刈(なたねがり)【菜種刈る 菜種打つ 菜種干す 菜種殻 菜種 菜殻火】
菜殻の火斉明陵のあたりにも 香月 梅邨
菜殻火の煙の土手にぶつかりし 古賀 紀子
藍刈(あいかり)【藍 藍玉 藍搗 一番藍 二番藍】
藍を刈る今も大きな藍の倉 浜 秋邨
越前へ送る藍玉二十俵 宮崎 寒水
藺刈(いかり)【藺刈る 藺干す】
海荒るゝ日の海女たちは藺草刈る 梧桐 青吾
神の庭お借り申して藺草干す 本宮 鬼首
菅刈(すげかり)【菅刈る 菅干す】
新しき疑獄生れし菅を刈る 阿部 照代
藻刈(もかり)【藻を刈る 刈藻 藻刈舟 藻刈棹 刈藻屑】
夕影は流るる藻にも濃かりけり 高浜 虚子
水口に引っかかりゐる刈藻かな 長沼 典子
麦刈(むぎかり)【麦を刈る】
妻が居て嫁が居て麦刈楽し 門岡 一笑
七月の暑さとなりぬ麦を刈る 三谷 美子
麦扱(むぎこき)【麦扱機】
麦扱機折り折り軋みつゝ無事に 古賀 三春女
麦打(むぎうち)【麦埃 麦を打つ 麦叩き 麦打歌】
麦を打つ頃あり母はなつかしき 高野 素十
麦埃かぶり漕ぎ行く車椅子 山田 百穂
麦藁(むぎわら)【麦稈 麦焼く】
麦藁を焼くや煙にむせびつゝ 柴山 長子
もんから火大もんから火佐賀平野 安部 伴女
鳥黐搗(とりもちつく)
想ひ出の石窪に鳥黐を搗く 中溝 八重子
辣韮掘る(らっきょうほる)【辣韮漬る 辣韮堀】
干瓢乾す(かんぴょうほす)【夕顔剥く 新干瓢】
干瓢のねぢれねぢれて干し上り 高島 みどり
麻畠(あさばたけ)【麻刈】
粟蒔(あわまき)【粟蒔く】
三方の上の三方粟を蒔く 打出 たけを
箕を造る里の生活や粟を蒔く 井上 史葉
稗蒔(ひえまき)【稗蒔く 稗を植う】
代掻く(しろかく)【代掻 田掻く 田の代掻く 田掻馬 田掻牛 田馬 田牛 代馬 代牛 代掻機】
代馬の泥の鞭あと一二本 高野 素十
代掻きの泥の乾きしふくらはぎ 遠入 たつみ
早苗取(さなえとり)【早苗舟 早苗籠 早苗束】
早苗取る雨の一日長かりき 小山 登喜子
早苗籠道いっぱいにおかれをり 三谷 美子
苗運び(なえはこび)【苗配り 苗籠 余り苗 捨苗】
苗運ぶ力右足左足 土永 竜仙子
早苗束女の身振り程飛ばず 佐藤 淡竹
田植え(たうえ)【田植始 早苗開 田植人 田植女 田植歌 田歌 田植笠】
大利根を渡れば潮来大田植 本間 巨紅
十人が十人黙り田を植うる 野中 穂浪
早乙女(さおとめ)【五月女】
一枚の田に早乙女の集り来 佐藤 光風
早乙女のみな帰りたる畦木かな 難波 三椏
早苗饗(さなぶり)【田植仕舞】
早苗饗の娘の板橋をとんとんと 射場 秀太郎
早苗饗のかまどが燃えて炉が燃えて 大橋 もと女
誘蛾燈(ゆうがとう)
俳諧の夜の語らひの誘蛾灯 渋谷 一重
誘蛾灯泣く子を抱いて病室へ 玉木 こうじ
虫篝(むしかがり)
虫篝消えて瀬音の闇となる 大隈 草生
虫篝焚くやをちこち湯のけむり 司城 容子
田草取(たぐさとり)【田の草取り 一番草 二番草 三番草 除草機】
うしろへも広がる水輪田草取 羽生 大雪
二番草取って百姓少し閑 是木 二楽
草取(くさとり)【草むしり】
国分寺跡に昼餉や草取女 森 かほる
草引きし顔のほてりの夜も冷めず 澤 ゑい
水番(みずばん)【夜水番 水番小屋 堰守 水守る 水盗む】
煙草火に読む腕時計夜水番 宮野 寸青
見廻りか水盗人か一人ゐる 山口 笙堂
水喧嘩(みずげんか)【水論 水争い】
百姓の妻になりきり水喧嘩 古川 あつし
水喧嘩ありたる夕べ雨となる 都甲 君子
雨乞(あまごい)【雨の祈 雨乞祭 喜雨経】
高野より雨乞の灯を賜りし 谷本 圭司
雨乞に女相撲を奉納す 佐々木 鳴子
草刈(くさかり)【草刈る 朝草刈 草刈女 草刈籠 草刈鎌】
湖のあかるきうちは草を刈る 宮崎 寒水
父の鎌使ひよかりし草を刈る 北里 信子
瓜番(うりばん)
瓜番のたゞ灯して夜々遊び 永松 西瓜
瓜番の出て来て道を教へけり 佐藤 梧林
瓜小屋(うりごや)
三枚の蓆の圍ひ瓜番屋 澤村 芳翠
牛冷す(うしひやす)【牛洗う】
牛冷す如耕耘機川に入れ 伊予田 六洋
馬冷す(うまひやす)【馬洗う】
おとなしく渓流に入る馬洗ふ 玉木 こうじ
蹤いて来し仔馬見てゐる馬冷す 本多 野風呂
天草取(てんぐさとり)【石花菜取る】
てんぐさを拾ふ女の礁にとび 緒方 聿子
ころがして干天草の仕上がりぬ 久慈 静
蓴舟(ぬなわぶね)【蓴採る】
蓴舟帰りし沼の夕明かり 難波 三椏
蓴採る舳先に膝を乗り出して 赤羽 岳王
荒布舟(あらめぶね)【荒布刈る 黒菜刈る】
縁先に波くつがへり荒布宿 坂口 かぶん
動物
袋角(ふくろづの)【鹿の若角 鹿茸】
袋角まで白鹿は白くなる 山口 笙堂
袋角突き合せゐるあはれさよ 金子 九九
鹿の子(かのこ)【子鹿 親鹿】
鹿の子の目の美しき厳島 平松 青泉
雨にぬれ茶店の前の子鹿かな 村尾 梅風
燕の子(つばめのこ)【子燕 親燕】
燕の子つばめ返しをして見せし 松下 芳子
子つばめの巣立ちけふともあしたとも 山田 百穂
烏の子(からすのこ)【子烏 親烏】
子烏のひねもす親を待ちてなく 川原 みや女
子烏の口中不気味なる真赤 山口 笙堂
鮎鷹(あゆたか)【鮎刺 鯵刺】
水鳥の巣(みずとりのす)【鷭の巣 鴨の巣 水鶏の巣 鴛鴦の巣】
水鳥に落日のあり巣にもどる 伊東 伸堂
浮巣(うきす)【鳰の浮巣 鳰の巣】
紅き首のべて浮巣のかいつむり 橋爪 靖人
浮巣見てをりて別れる刻の来し 浜岡 延子
通し鴨(とおしがも)【夏鴨 軽鴨】
通し鴨あるとき賤ヶ岳へとぶ 杉浦 東雲
たゞよへる裏足摺の通し鴨 坂本 鬼灯
軽鳧の子(かるのこ)【鴨の子 軽鴨の子】
鴨の子の頭並べて親を見る 本田 空也
葭切(よしきり)【葭原雀 大葭切 小葭切 行々子 葦原雀】
葭切の葭の高さを飛び移る 松吉 良信
対岸の大葦原や行々子 田宮 良子
翡翠(かわせみ)【ひすゐ 赤翡翠 山翡翠】
柳伐って翡翠終に来ずなりぬ 正岡 子規
蝙蝠(こうもり)【かはほり 蚊喰虫】
蝙蝠の一刻なりし川の上 金井 綺羅
窓高き珈琲倉庫蚊喰鳥 木村 都由子
老鴬(おいうぐいす)【夏鴬 鴬老を鳴く 狂鴬 乱鴬 残鴬】
老鶯や南郷谷の阿蘇五岳 青木 秀水
水没の村うぐひすの老を聞く 真柄 嘉子
時鳥(ほととぎす)【杜鵑 子規 杜宇 不如帰 山時鳥 初時鳥】
山々は萌黄浅黄やほととぎす 正岡 子規
不如帰耳の底より醒めてゆく 栗田 直美
閑古鳥(かんこどり)【かっこどり 郭公】
閑古鳥人とどまりてまた歩む 上田 俊二
郭公のまだ明けきらぬ森になく 桝本 澄子
仏法僧(ぶっぽうそう)【慈悲心鳥】
仏法の鳴く鳥の闇深くして 田中 南耕
昼暗き木立の雨や仏法僧 刈谷 千代
筒鳥(つつどり)
高原の筒鳥遠く聞き歩く 藤田 静水
筒鳥やみるみる晴るゝ山の霧 秋山 万里
羽脱鳥(はぬけどり)【羽抜鳥 羽抜鶏 羽抜鴨】
籠の中足もてあまし羽脱鳥 長沢 六郎
追ふ鳥も追はれる鳥も羽抜鳥 栗林 典子
水鶏(くいな)【緋水鶏 水鶏笛】
沼の闇遠くひろがり水鶏鳴く 長谷川 耕畝
水盗みしたる記憶や水鶏鳴く 大隈 米陽
鷭(ばん)【大鷭 川烏】
鷭鳴いて夏これよりの隠れ沼 東原 芦風
みほとけに鷭鳴く沼の夕明り 大山 百花
青鷺(あおさぎ)
雷鳥(らいちょう)【雷鶏】
雷鳥の人の如くに顧る 打出 たけを
雷鳥の雌呼んでゐる声かとも 林 正之
繭(まゆ)【新繭 白繭 黄繭 玉繭 屑繭】
繭になる静かな音の一間かな 上島 としえ
研白といふ美しき繭出荷 石橋 郷水
蚕蛾(さんが)【蚕の蝶 蚕の蛾 繭の蝶】
這ひ出でて眉美しき蚕蛾かな 浜川 穂仙
お供への繭の蝶出し祠かな 岡崎 芋村
夏蚕(なつご)【二番蚕】
三軒の平家の裔や夏蚕飼ふ 市ノ瀬 翔子
方墳の夏蚕の桑のたゞ中に 田島 魚十
根切虫(ねきりむし)
丹精の菊に喰ひ入る根切かな 渡辺 彦陽
太り居て黒きがにくし根切虫 甲斐 謙次郎
松蝉(まつぜみ)
松蝉の恋に破れし如鳴ける 金井 綺羅
松蝉や見えゐて遠き島の村 穴井 梨影女
穀象(こくぞう)【米の虫 象虫】
穀象の追ひも追はれもせず歩む 穴井 湧峰
穀象や明治育ちの母つまし 木村 都由子
螻蛄(けら)
ひたすらの螻蛄の生き様愛しかり 牧 月耕
けら鳴くや地図にあれどもけもの道 中島 木曽子
優曇華(うどんげ)
うどんげの咲いて轉がる稗の臼 坂口 かぶん
旅立ちの朝の優曇華ありがたし 渕野 なぎさ
火取虫(ひとりむし)【灯虫 燈蛾 火蛾 燭蛾 毒蛾 天蛾 夏虫】
火取虫ひとりの窓を叩きに来 三ケ尻 とし子
しばらくは静かな火蛾でありにけり 甲斐 梶朗
螢(ほたる)【螢合戦 源氏螢 平家螢 初螢 螢火 飛ぶ螢】
トンネルを抜けて即ち螢の夜 秋山 万里
温もらぬ螢火つつむ両掌かな 川口 厚子
まひまひ(まいまい)【水澄 渦虫 鼓虫】
まひんひの円に遠心力のあり 松本 武千代
まひまひの水暗がりに来て休む 薗田 秀子
あめんぼう(あめんぼう)【水馬 あめんぼ】
水口によれば流されあめんぼう 香下 純公
水馬流され水輪流されし 倉田 紘文
糸蜻蛉(いととんぼ)【燈心蜻蛉】
糸とんぼ三つとなりし流れかな 瀧村 水峯
糸とんぼ水辺の昏さばかりとぶ 松藤 三鶴
川蜻蛉(かわとんぼ)【鉄漿蜻蛉】
川蜻蛉巻葉の先にひとやすみ 小島 菜美
増えて来しおはぐろとんぼ水の上 三浦 つき子
蜻蛉生る(とんぼうまる)【やご 蜻蛉の子】
蜻蛉生る翅をたゝみて風に耐へ 成瀬 千代
草の露抱いて蜻蛉生れをり 羽野 蕗村
蟷螂生る(とうろううまる)【子蟷螂 かまきりの子 螳螂の子 蟷螂の子】
子蟷螂みどりの鎌を我に向け 若林 かつ子
子かまきり鎌をあげたるをかしさよ 小松 虹路
蝿(はえ)【五月蝿】
活きた目をつゝきに来るか蝿の声 正岡 子規
牛蝿のゐてこの辺はすでに牧 穴井 研石
蝿虎(はえとりぐも)【蝿捕蜘蛛】
蝿居らぬわが家蝿虎がをる 沢井 山帰来
はえ捕蜘蛛三段跳の名手かな 田島 富子
蜘蛛(くも)【女郎蜘蛛 黄金蜘蛛 脚長蜘蛛】
くもの糸一すぢよぎる百合の前 高野 素十
死んだふりしている蜘蛛の小さゝよ 松本 あや子
蜘蛛の囲(くものい)【蜘蛛の巣】
蜘蛛の囲を取りて千体仏拝む 岩佐 たか
張り終へし大蜘蛛の巣の蜘蛛孤独 後藤 寿美
袋蜘蛛(ふくろぐも)【蜘蛛の太鼓】
蜘蛛の子(くものこ)
蜘蛛の子の八方に逃ぐ速さかな 岩本 幸吉
蜘蛛の子にはや父もなし母もなし 倉田 紘文
源五郎(げんごろう)【源五郎虫】
藻の花を鼻にぶらぶら源五郎 本間 一萍
源五郎力をぬけば浮きあがり 徳永 球石
蚰蜒(げじげじ)
蚰蜒の逃げ足迅し荘開き 五十嵐 象円
油虫(あぶらむし)【ごきぶり】
油虫人をうかゞひゐる如く 豊東 蘇人
我いまだ寝ても居らずよ油虫 鈴村 寿満
蟻(あり)【蟻の道 蟻の塔 蟻塚 蟻の列】
蟻二匹ゆくあてありて右左 安楽 つねみ
入口に混み合ふ蟻や蟻の塔 大野 多美三
羽蟻(はあり)【飛蟻】
蟻地獄(ありじごく)【あとすざり 擂鉢虫】
蟻地獄松風を聞くばかりなり 高野 素十
尼逝きて久しくなりし蟻地獄 山本 祐三
まくなぎ(まくなぎ)【めまとひ 糠蚊】
まくなぎの付いて入りし機場かな 松本 ます枝
めまとひを払ふ仕草の皆同じ 山田 聴雨
蚋(ぶと)【ぶと ぶよ 蚋子 蟆子】
右の耳左の耳の蚋払ふ 東原 芦風
ふるさとの蚋に喰はれて母と在り 川原 道程
蛆(うじ)【蛆虫 さし】
孑孑(ぼうふら)【ぼうふり】
我思ふまゝに孑孑うき沈み 高浜 虚子
孑孑が飛び翔つ稽古してをりし 山田 無吾
蚊(か)【蚊柱 蚊の声 鳴く蚊 薮蚊】
足の蚊を足で払ひつ桑をやる 尾石 ゑい
蚊柱の近きにありて立話 稲光 すみ
蚤(のみ)【蚤の跡】
ががんぼ(ががんぼ)【蚊蜻蛉 蚊蛯 大蚊】
ががんぼの足の長きがおもしろく 森田 桂子
ががんぼの交みし宿の旅愁かな 冨永 津耶
尺蠖(しゃくとり)
尺蠖の尺とり終へて逆立てる 阿部 夕礁
尺蠖の胡瓜の枝かとだまされし 城戸崎 松代
夏の蝶(なつのちょう)【梅雨の蝶】
舞ひ下りて真白き夏の蝶となる 前山 百年
暮るゝまで山の夏蝶飛んでゐし 小林 たか子
百足虫(むかで)【蜈蚣】
殺めたる百足虫の妻かやや小さし 沢井 山帰来
道おしえ(みちおしえ)【斑猫】
道をしへ奥の細道どこまでも 山本 忠壯
大塔の村役場までみちおしへ 玉置 節子
天道虫(てんとうむし)【てんとむし】
翅わって天道虫の飛びいづる 高野 素十
石かかへ天道虫の動かざる 稲田 眸子
玉虫(たまむし)【吉丁虫】
玉虫の眩しき翅をひろげゐし 三浦 光鵄
玉虫の飛びたる方の道をゆく 丸山 麻子
黄亀虫(こがねむし)【かなぶん ぶんぶん ぶん虫 金亀子 黄金虫】
金亀子擲つ闇の深さかな 高浜 虚子
ぶんぶんの生きてゐるなり足動く 豊東 蘇人
髪切虫(かみきりむし)【かみきり 天牛 桑天牛】
羽音してかみ切り虫の胸に来し 佐藤 芙陽
兜虫(かぶとむし)【さいかちむし 冑虫 甲虫】
ひっぱれる糸まっすぐや甲虫 高野 素十
高山の朝市甲虫も売る 山田 無吾
毛虫(けむし)【松毛虫 青毛虫】
つる草の茎に逆立ち毛虫かな 香下 純公
糸長く曳いて毛虫の宇宙かな 吉野 十夜
蝉(せみ)【初蝉 蝉涼し 蝉時雨 唖蝉 夕蝉】
這ひ松の花を抱きて蝉鳴けり 橋爪 巨籟
夕蝉の汐引く如く鳴き沈む 梧桐 青吾
空蝉(うつせみ)【蝉の殻 蝉の脱殻】
空蝉を呉れし丸山芸者かな 山内 傾一路
蝉の殻朝日射しきて透きとほる 野田 武
夜光虫(やこうちゅう)
夜光虫掬ひこぼるる波の上 村中 美代
拗ねたふりして夜光虫見てをりし 播磨 てるみ
船虫(ふなむし)【舟虫】
船虫の動けば足のみな動く 谷口 三居
船虫の障子を這ふも島の宿 中井 ユキ子
紙魚(しみ)【きららむし 衣魚】
就中宋の拓本紙魚多し 真鍋 蕗径
住み古りて紙魚ころころと太りけり 頓所 八重子
落し文(おとしぶみ)
落し文拾ひし誰もあけて見ず 吉田 ひで
この森に恋の想ひ出落し文 阿部 夕礁
亀の子(かめのこ)【銭亀】
浮き上りきし亀の子の我を見る 杉浦 東雲
銭亀の聞き耳立てゝ首のばし 田辺 栖村
ゐもり(いもり)【赤腹】
蟹(かに)【山蟹 川蟹 沢蟹 ざり蟹】
蟹の簗かけて籔中王子守る 谷本 圭司
さわ蟹の畳を這へる泊りかな 明石 茂子
雨蛙(あまがえる)【青蛙 枝蛙】
雨蛙よくなく我もミシン踏む 上田 芳子
青蛙水はりし田の整ひし 斉藤 みつこ
蟇(ひきがえる)【蝦蟇 蟾蜍 がまがえる】
蟇汝眼中貴賎なし 平野 六角牛
蟇鳴いて夫恋ふ夜をかさねつつ 丸山 麻子
蝸牛(かたつむり)【でゝむし かたつぶり でんでんむし かたつむり】
浜木綿の花の傷みや蝸牛 射場 延助
蝸牛昨日も今日も同じ葉に 竹田 ひろし
蛞蝓(なめくじ)【なめくじり なめくじら】
なめくぢのみちの光れる磨崖仏 大江 朱雲
国東の塔に雨降るなめくぢら 中村 仏船
蚯蚓(みみず)
思ひきり伸びて蚯蚓の庭を這ふ 六久保 碧水
河鹿(かじか)
袋田の吊橋ゆるゝ初河鹿 中溝 八重子
石佛の菅尾の里の河鹿笛 尾石 ゑい
田亀(たがめ)【どんがめ 河童虫 高野聖】
田亀くわがた有りマスと筆太に 梁取 久子
蛭(ひる)【山蛭 馬蛭】
浮草を押しながら蛭泳ぎをり 高野 素十
蛭の池埋め立てられし轍かな 日隈 翠香
守宮(やもり)【壁虎】
小守宮の礎石に雨が降れば出る 富永 花鳥
レストランとは名ばかりや守宮住み 高橋 向山
蛇(へび)【くちなわ ながむし】
蛇追ひし棒切れあとも持ち歩く 坂本 鬼灯
断々の神の蛇ゐる壁画かな 桐野 善光
蛇の衣(へびのきぬ)【蛇衣を脱ぐ 蛇の殻 蛇の脱殻】
蛇衣脱げる仔細を見たりけり 中 裕
棒の先重さなかりし蛇の衣 山内 傾一路
蝮蛇(まむし)【蝮 赤蝮】
先達のまむし拂ひの杖を持ち 坂本 明子
草の戸の蝮の串を干されあり 今井 文野
飯匙倩(はぶ)
蜥蜴(とかげ)
蜥蜴ふととゞまり我も立ち止まる 澤 ゑい
子蜥蜴の大蝿へ身を一擲す 矢津 羨魚
海酸漿(うみほおずき)
なつかしき海ほほづきよ遠き日よ 佐藤 佳津
穴子(あなご)【海鰻】
鱚(きす)【きすご】
針はづす鱚のぬくもり悲しけれ 桶川 皆舟
鱚釣りや温泉宿の浴衣着て 坂本 ひろし
鯖(さば)【田植鯖 青鯖】
室戸の灯遠し鯖火の尚遠し 片岡 北窓子
飛魚(とびうお)【とびを つばめ魚 あご】
飛魚や航き交ふなべて土佐の舟 串上 青蓑
濃藍の潮に消えしつばめ魚 井手 芳子
烏賊(いか)【真烏賊 やり烏賊 烏賊の墨】
島は皆同姓にして烏賊吊す 清田 柳水
山女(やまめ)【やまべ えのは】
分校をのぞいてゆきし山女魚釣り 小川 背泳子
百姓の帆待ち山女を売りにくる 新島 艶女
初鰹(はつがつお)【初松魚】
一本を抛り足したる初鰹 串上 青蓑
牟婁の江のにぎわひ続き初鰹 吉田 伝治
蝦蛄(しゃこ)
初めての蝦蛄に刺されし釣師われ 玉木 こうじ
鰻(うなぎ)【しらす】
簀の鰻がんじがらみに育ちをり 中 裕
湖の霧に現れ鰻舟 今川 青風
鯰(なまず)【梅雨鯰 ぼみ鯰】
魚篭にまだ昨夜の鯰の生きてをり 吉田 長良子
鯰釣らるる針ごとふかく呑みこみて 田北 ぎどう
濁り鮒(にごりぶな)
はらからの皆ちりぢりに濁り鮒 小野 克之
目高(めだか)【緋目高】
忘れゐしバケツの目高生きてをり 荒巻 大愚
緋目高の稚魚のぞき見る重なりて 中屋敷 久米吉
手長蝦(てながえび)【川蝦】
鮎(あゆ)【香魚 年魚】
姉川も妹川も鮎の川 小島 雅夫
門前の茶屋賑ひて鮎の頃 紺井 緑
鯵(あじ)【真鯵 赤鯵 黒鯵 大鯵 小鯵】
食欲の無き妹に叩き鯵 青木 歌子
朝市に鯵買ひ来るも旅の宿 藤垣 とみ江
べら(べら)【青べら 赤べら】
二三隻舳そろへてベラを釣る 坂本 ひろし
鯒(こち)
黒鯛(くろだい)【ちぬ 茅海】
鰹(かつお)【堅魚 松魚】
帰り来よ鰹も旬の土佐なれば 片岡 北窓子
一と膳のみな海の幸初鰹 篠原 美加英
鮴(ごり)【川鰍】
長き橋渡りて行くや鮴の宿 鈴村 寿満
岩魚(いわな)
谷二つ落ち合ふところ岩魚釣る 高木 一水
食事待て大岩魚焼きあがるまで 山田 月家
鱧(はも)【水鱧】
鱧食べて我も浪速の祭人 矢津 羨魚
古里のテレビに乗りし鱧の味 岩田 麗日
金魚(きんぎょ)
新しき水新しき金魚かな 内田 じすけ
忘られしたらひの中の金魚かな 指中 恒夫
海月(くらげ)【水母】
流れつゝうすれてゆきし海月かな 徳永 球石
漂へる海月の中を漕ぎ進む 吉田 伝治
鰈(かれい)【城下鰈】
苗代風吹いて鰈の旬となる 二宮 美代
花町のさびれし室津鰈干す 山内 二三子
植物
余花(よか)
七百の無縁の仏余花の寺 大賀 賢子
一行のみな帰りたる余花の寺 川原 道程
葉桜(はざくら)【桜若葉 葉となる桜 桜葉となる】
葉櫻となりて日和のもどり来し 本田 菁爽
葉桜や女の旅の雨となる 半澤 律
葉柳(はやなぎ)【夏柳】
対岸の家並みに揺るゝ夏柳 林 博子
夏柳水掃くまではとどかざる 緒方 みち子
新樹(しんじゅ)【緑樹 新樹光】
舞ふ我に新樹の風や薪能 金井 綺羅
ポロネーズ新樹の森に甦る 篠崎 余士子
新緑(しんりょく)
新緑に俗を離れて離宮かな 幸 数限
新緑に神の笛吹く男の子 若林 かつ子
緑(みどり)【万緑】
一曲りして万緑の山に入る 佐藤 八山
万緑の中に胎動日々強く 合原 泉
青葉(あおば)【青葉山 青葉風】
橡の木といふたくましき青葉かな 古屋 貞子
余り湯の青葉にひびく筋湯かな 麻生 直美
若葉(わかば)【谷若葉 里若葉 若葉風 若葉雨】
大前に風遊ばせて若葉かな 久保 青山
鉄橋のゆるきカーブや谷若葉 小倉 草人
柿若葉(かきわかば)
剪定のゆきとゞきたる柿若葉 檜田 慧星
家々の裏の畑の柿若葉 河合 正哉
樫若葉(かしわかば)
樫若葉黒髪庵は暗きかな 川原 みや女
椎若葉(しいわかば)
大いなる椎の若葉の一の宮 梁取 久子
さはやかに風光りゆく椎若葉 軸丸 光義
樟若葉(くすわかば)
陸橋のらせん階段樟若葉 森田 たえ
お札所の楠の落葉の終りたる 近石 ひろ子
若楓(わかかえで)【楓若葉 青楓】
上に座す薬師如来や若楓 小田部 杏邨
若竹(わかたけ)【今年竹】
若竹に青き大空ありにけり 嶋田 つる女
竹林の外へ外へと今年竹 南雲 糸虫
篠の子(すずのこ)【笹の子】
篠の子の仏道まで生ひ出でし 是永 李乃
篠の子のつんつん高し診療所 谷田 チヱ子
竹の皮脱ぐ(たけのかわぬぐ)【竹の皮散る】
二三枚ぶらさがり竹皮をぬぐ 遠入 たつみ
竹皮を一枚ぬぎて夜の明けし 山崎 朝日子
竹落葉(たけおちば)【竹散る 笹散る】
風のなくなりし空より竹落葉 江藤 都月
人すぎし気配にも似て竹落葉 古屋 貞子
常磐木落葉(ときわぎおちば)【常磐木散る 樟落葉 樫落葉 椎落葉 夏落葉】
重くなるといふ程でなく夏落葉 小林 たか子
沈みつゝ流れてゆきし夏落葉 芦川 巣洲
松落葉(まつおちば)【散松葉】
松落葉草履の裏にやはらかし 堀澤 臺子
杉落葉(すぎおちば)【杉の落葉】
伊夜日子の七つの末社杉落葉 長谷川 蕗女
杉落葉焚けば一気に燃えあがり 岡本 求仁丸
芭蕉巻葉(ばしょうまきば)【玉巻く芭蕉 玉解く芭蕉】
玉解いて立ち並びたる芭蕉かな 高野 素十
玉解いて風新しき芭蕉かな 射場 秀太郎
病葉(わくらば)【病葉落つ】
病葉の美しすぎてふり返り 佐藤 佐世
散らばりて雨の病葉五六枚 円仏 美咲
蓮の浮葉(はすのうきは)【浮葉 銭荷】
ひるがへりつゝ重なりし浮葉かな 原田 耕二
夜の明けてをりし二枚の浮葉かな 倉田 紘文
夏木(なつき)【大夏木】
帰りゆく人のかくれし夏木かな 山崎 朝日子
人過ぎてよりの静けさ大夏木 香下 寿外
夏木立(なつこだち)【夏木陰】
斉館の昼を灯して夏木立 冨永 津耶
托鉢の僧つづきくる夏木立 小田部 杏邨
茂(しげり)【茂み 茂葉 山茂る】
大いなる神の茂りとしてありぬ 杉浦 東雲
本堂へ白き道ある茂りかな 田中 美代子
木下闇(こしたやみ)【下闇 木の暮 木暗し】
絵馬堂の絵馬の薄れし木下闇 上田 俊二
下闇の人となりつつ遠ざかる 三浦 つき子
緑陰(りょくいん)
緑陰に昔のまゝの力石 吉田 伝治
せんだんの木蔭まで来て一人かな 渕野 なぎさ
牡丹(ぼたん)【ぼうたん 白牡丹 緋牡丹】
白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜 虚子
一片の欠けてより急散牡丹 倉田 紘文
芍薬(しゃくやく)
芍薬のつぼみの間ながきかな 丸山 法子
芍薬の咲き極りし大きさよ 川村 千英
菖蒲(しょうぶ)【あやめぐさ】
花菖蒲(はなしょうぶ)【白菖蒲 黄菖蒲】
だんだんに明るき雨の花菖蒲 小林 正夫
風の道自づとありぬ花菖蒲 林 富佐子
杜鵑花(さつき)【五月躑躅 山躑躅】
乗る駅に降りたる駅に杜鵑花かな 加来 都
さつき見に来て門標を書かさるる 刈谷 次郎丸
あやめ(あやめ)【花あやめ】
黄あやめに黄のさゞなみのひろごりぬ 関 夫久子
初産は時の記念日花あやめ 渡辺 照子
杜若(かきつばた)【燕子花】
僧の声障子の内に杜若 有川 淳子
絹糸の雨落ち来たり燕子花 福島 鼓調
一八(いちはつ)【鳶尾草】
いちはつの中より白き蝶出づる 石山 高子
一八の花片垂れし昼下り 甲斐 梶朗
苗物(なえもの)
苗床の淀の夫婦の苗くれし 山内 二三子
早苗(さなえ)【玉苗 余り苗 捨苗】
抛られしところに早苗束かしぎ 桐野 善光
捨苗の夕べの雨に立直り 中村 千恵子
朝顔苗(あさがおなえ)
青蘆(あおあし)【蘆茂る】
青芦に夜もさゝ波の変りなく 岩本 周熈
青芦の風来る白き砂を踏む 阪田 ひで
青芒(あおすすき)【青萱 萱茂る 芒茂る】
青すゝき雨喜びて走りけり 宮崎 寒水
吹く風に身をまかせつゝ青芒 工藤 隆子
真菰(まこも)【真菰刈】
船頭の唄の吹かるゝ真菰風 平山 愛子
芦の風硬し真菰にやはらかし 佐々 波二
青桐(あおきり)【梧桐】
梧桐の二階に迫りひそと病む 田中 起美恵
梧桐の簾代はりや厨窓 工藤 順子
青芝(あおしば)【夏芝】
青芝に一樹の影の濃かりけり 工藤 芳久
青芝に白き花びらこぼれけり 佐藤 都
青蔦(あおつた)【蔦茂る】
青蔦や住まはぬままの異人館 岡井 美津
岩かけて青蔦馬頭観世音 井上 史葉
青山椒(あおざんしょう)
青山椒摘めばこまかき実をこぼす 丹羽 玄子
青葡萄(あおぶどう)
葉の色と同じ色して青ぶだう 渡辺 しづ
一房の葉にかくれたる青ぶだう 上野 小百合
青唐辛(あおとうがらし)【青蕃椒】
青鬼灯(あおほおずき)【青酸漿】
鬼灯のまだ真青なる二つ三つ 若山 良子
ほほづきの青き朝の雨上る 杉山 マサヨ
青柿(あおがき)
ブランコのゆれて青柿ふって来し 長野 豊子
お花畠(おはなばたけ)
正面の星生山やお花畑 大塚 華恵
グラヂオラス(ぐらじおらす)【唐菖蒲 グラジオラス】
グラヂオラス濃き紅茶にひかれけり 毒島 忠孝
咲き上りグラヂオラスの花終る 小園 末子
アマリリス(あまりりす)
アマリリス叢るは濃き空の色 坪根 里杏
夫恋は恋にはあらずアマリリス 森田 桂子
ヂキタリス(ぢきたりす)【ジキタリス】
サルビア(さるびあ)【サルビヤ】
サルビヤの生まれてをりしほむらかな 江藤 芙代子
サルビアの花紅き日の訃報かな 坂田 玲子
カーネーション(かーねーしょん)
抱きたるカーネーションや母米寿 安藤 立詩
七本のカーネーションを病む母へ 青木 秀水
ダリヤ(だりや)【ダリア】
太陽に面を向けてダリアかな 城戸 杉生
道端のダリヤの花に顔よせて 野原 湖心
羊蹄の花(ぎしぎしのはな)【野大黄 牛舌】
羊蹄の花にパレード通るなり 大隅 草生
ぎしぎしの花より低く僧の墓 河上 睦女
車前草の花(おおばこのはな)【大葉子 車前草咲く】
踏まれつゝ車前草の葉の広ごりぬ 池上 秀子
おほばこの花をはげしく雨叩く 若土 白羊
罌粟の花(けしのはな)【芥子の花 花芥子】
はなびらをうちふるはせて風の罌粟 釘宮 のぶ
けしの花散りて終ひし妻の夢 澤 草蝶
鉄線花(てっせんか)【鉄線 てつせんかづら】
鉄線の打ち重なれる花平ら 黒沼 草生
鉄線の花の小さき二番花 是木 ゑみ
忍冬の花(すいかずらのはな)【忍冬 金銀花】
夕風に蔓遊びをりすひかづら 島崎 伸子
柵越えて忍冬の花盛りかな 市ノ瀬 翔子
野蒜の花(のびるのはな)
花野蒜今日も来たりし鳩の群 村井 葉月
繍毬花(てまりばな)【大でまり】
前栽の昏れ残りたる大でまり 菅 直桑
茨の花(いばらのはな)【野茨の花 花茨 茨】
鼻先に野茨下がり磨崖佛 河野 聖城
花茨平行線の線路かな 横井 かず代
卯の花(うのはな)【花卯木 山うつぎ 卯の花垣 空木の花】
卯の花の水呑峠夫と越ゆ 中村 としゑ
県境の低き山脈花うつぎ 浦辻 美笑
石榴の花(ざくろのはな)【花石榴】
見上げては人みな通る花石榴 佐藤 ともえ
夕暮れのやさしき刻や花石榴 加藤 和子
山梔子の花(くちなしのはな)【梔子の花 花くちなし】
くちなしの夕べの花のふと匂ふ 杉本 山盧
くちなしの白きに遠き想かな 岡本 求青
南天の花(なんてんのはな)【花南天】
南天の花のこぼるる庭の日々 若山 良子
南天の花の白さの夕べかな 岡本 尚枝
榊の花(さかきのはな)【花榊】
大前に父が寄進の花榊 菅 直桑
紫陽花(あじさい)【七変化 四葩 手毬花】
あぢさゐの花の下ゆく疎水かな 酒井 露酔
紫陽花の雨のやはらぐ読書かな 橋本 對楠
額の花(がくのはな)【額紫陽花】
み仏の周り明るし額の花 岡本 求仁丸
友の忌のまためぐりくる額の花 斎藤 栄峰
茴香の花(ういきょうのはな)
君折りし茴香の香を強しとも 伊津野 静
紅の花(べにのはな)【末摘草 紅藍の花】
恋の句の芭蕉に多し紅の花 加藤 羝羊子
紅花の紅くなりつゝある黄色 鈴木 康永
鬼灯の花(ほおずきのはな)【酸漿の花】
鬼灯の俯く花に雨雫 福島 はま
萱草の花(かんぞうのはな)【忘草 忘憂草】
萱草の一番花の大いなる 江本 如山
萱草の残る一花に皆集ひ 大月 智恵子
黐の花(もちのはな)【もちの木 冬青の花 江戸黐 黒鉄黐 ねずみもち】
ぶんぶんと蜂の来てゐるもちの花 佐藤 芙陽
咲きそめし鳥の運びしねずみもち 吉村 寒雷
錦木の花(にしきぎのはな)
錦木の花のみどりのうすうすと 椎野 房子
胡蘿蔔の花(にんじんのはな)【人参の花】
人参の自生の花も勝手道 佐藤 豊子
黄菅の花(きすげのはな)【夕菅】
一つ咲く黄菅の花の沖を向く 谷口 三居
波やさし島の夕菅ひらく頃 谷口 理江
水木の花(みずきのはな)【花水木】
これよりの谷の深さや花みづき 飯田 波津恵
花明りなきさびしさよ土佐みづき 山崎 朝日子
木斛の花(もっこくのはな)【花木斛】
木斛の花に風あり海女の墓 村中 美代
人知れず木斛の花散りにけり 田原 砂子
瓢の花(ひさごのはな)
花ふくべ今日の尼様艶なこと 宮野 寸青
日の入るを待ちかねて咲く瓢かな 原 鬼灯
石斛の花(せっこくのはな)
凌霄花(のうぜんか)【のうぜんかずら】
凌霄の花からみ合ひ吹き上り 大野 多美三
のうぜんの棚かげに持つ絵筆かな 江藤 ひで
虎杖の花(いたどりのはな)
虎杖の花に夕べの残りをり 大野 すみ
虎杖の花吹き荒れて阿蘇近し 桝本 澄子
独活の花(うどのはな)【花独活】
独活の花とは大きくて淋しくて 榊原 弘子
灸花(やいとばな)【へくそ葛】
花咲くにへくそ蔓の名の哀れ 都甲 康枝
蔓に蔓からみてへくそ葛咲く 瀬戸 十字
韭の花(にらのはな)
群がりて蝶の浄土や韭の花 大山 百花
韭の花見てゐて淋し家に入る 佐竹 たか
山牛蒡の花(やまごぼうのはな)
山牛蒡咲いてこまかき花こぼす 丹羽 玄子
蕃椒の花(とうがらしのはな)【唐辛子の花】
茄子の花(なすのはな)【なすびの花 花茄子】
浜宿の小さき畑の茄子の花 小林 正夫
花茄子の一番花のこちらむき 山下 尭
馬鈴薯の花(じゃがいものはな)【じゃがたらの花 ばれいしょの花】
馬鈴薯の花にしばらく夕明り 天沼 茗水
じゃがたらの花咲く島へ退院す 中井 ユキ子
瓜の花(うりのはな)【瓜咲く】
山門を出れば瓜畑瓜の花 北川 与志昭
葉がくれに空を仰いで瓜の花 栗原 昌子
南瓜の花(かぼちゃのはな)【花南瓜】
移り住み南瓜の花を咲かせけり 三宮 美津子
雨の日は咲かぬものらし花南瓜 芦川 巣洲
西瓜の花(すいかのはな)
南瓜より西瓜の花の小さかりし 池田 歌子
蝶飛びて西瓜の雌花十四五個 中田 八重子
胡瓜の花(きゅうりのはな)【花胡瓜】
国境の辺り胡瓜の花ざかり 井上 たか女
家々の入江に沿ひし花胡瓜 上原 はる
糸瓜の花(へちまのはな)
糸瓜咲く庭に暫く待たされし 伊東 柳吟
烏瓜の花(からすうりのはな)
烏瓜花あはあはと風の中 丹羽 玄子
隣より越え来て烏瓜の花 若林 かつ子
胡麻の花(ごまのはな)
胡麻の花咲きはじめたることも又 山本 嘉代子
昏鐘に暑さ残して胡麻咲けり 野田 武
棉の花(わたのはな)
塔二つ遠くに見えて綿の花 鈴木 灰山子
綿の花素足に慣れて来し移民 栗原 義人堂
玉蜀黍の花(とうもろこしのはな)【なんばんの花】
唐黍の花の咲きゐる遺跡かな 茂上 かの女
教材の玉蜀黍の雄花咲く 天野 逸風子
蜜柑の花(みかんのはな)【花蜜柑 蜜柑咲く】
花蜜柑匂ふ新任校に馴れ 本西 満穂子
旅の夜の一夜を匂ふ花蜜柑 三ケ尻 とし子
朱欒の花(ざぼんのはな)【文旦の花】
幸せに浸るいで湯や花朱欒 中野 喜久枝
橙の花(だいだいのはな)
柚の花(ゆのはな)【柚子の花】
花すでに柚子の香りや柚子の花 三宅 静枝
柚子の花こぼれしあたり夕明り 城戸 和喜子
苔の花(こけのはな)【花苔】
神燈の笠の広さに苔の花 是永 李乃
苔の花尼踏み昇り踏み降り 木村 草女
棕櫚の花(しゅろのはな)【花棕櫚】
尼様の墓石は丸し棕櫚の花 福島 鼓調
棕櫚の花だらりと下り散り初むる 城戸崎 松代
桐の花(きりのはな)【花桐】
山裾に旧街道や桐の花 吉田 伝治
山桐の花のこぼれし蔵の町 川口 厚子
朴の花(ほおのはな)【厚朴の花 朴散華】
朴の花暫くありて風渡る 高野 素十
枝先に遠由布抱き朴の花 藤間 蘭汀
泰山木の花(たいざんぼくのはな)
葉がくれに泰山朴の第一花 岩崎 仙巴
風の空泰山朴の花芯見ゆ 栗田 直美
アカシヤの花(あかしやのはな)【はりゑんじゅ アカシアの花】
アカシヤの咲く北国の町へ来し 柳詰 千賀子
アカシヤの花の吹雪といふに会ふ 曽我 鈴子
柿の花(かきのはな)
柿の花空の青さをまぶしめり 平田 節子
柿の花道半分にこぼれけり 椎原 惟虎
栗の花(くりのはな)【栗の花匂う】
花栗の堤過ぐれば湖の村 上原 信子
栗の花長者の森と人の呼ぶ 高橋 向山
椎の花(しいのはな)【椎咲く 椎匂う】
一山のことに明るき椎の山 帖地 津木
伊勢姫と一人の僧と椎の花 三浦 つき子
楝の花(おうちのはな)【栴檀の花 花樗】
橋のもと今も駄菓子屋花楝 澤村 啓子
北里忌過ぎたる後に楝散る 北里 信子
えごの花(えごのはな)
山陰の旅の始まるえごの花 伊谷 詢子
しばらくは散りくるえごの花に佇ち 足立 玉翠
合歓の花(ねむのはな)【ねぶの花 花合歓】
肩をうつ湯滝のしぶき合歓の花 坪根 里杏
花合歓の朝の駅に見送りぬ 本間 尚子
芭蕉の花(ばしょうのはな)【花芭蕉】
花芭蕉九万九千日の知らせあり 渡辺 竹子
実をつけて芭蕉の花のぶらさがり 菅 直桑
沙羅の花(しゃらのはな)【夏椿の花】
うつし世の一と日一と日の沙羅の花 若林 かつ子
待ち呆けくはされてをり沙羅の雨 川原 程子
水草の花(みずくさのはな)
菱の花(ひしのはな)
湖の神の育てし菱の花 小野 菖菊
菱の花撫養川こゝに滞る 谷崎 和布刈男
藻の花(ものはな)【花藻 玉藻】
藻の花に渡舟の出たる濁りかな 桶川 皆舟
ゆるやかな波に花藻の乗りてをり 小島 みどり
藺の花(いのはな)
音もなく細藺の花の雨となる 東 容子
蘇鉄の花(そてつのはな)
赤壁の寺の玄関花蘇鉄 井上 たか女
親子馬走る岬の蘇鉄咲く 野田 武
仙人掌(さぼてん)【霸王樹】
金鯱と云ふ仙人掌の花おそし 荒谷 来城
仙人掌の棘ににつかぬ花赤し 渡辺 寿栄子
大山蓮華(おおやまれんげ)【天女花】
うつむきて大山蓮華香りけり 久本 澄子
しっかりと堅き莟の天女花 福島 悦子
夾竹桃(きょうちくとう)
夾竹桃咲きてここまで佃島 関谷 又三郎
街路樹の夾竹桃の雨を来し 児玉 寿美女
山帽子(やまぼうし)【山法師 やまぐは】
やまばうし咲いて二の瀧三の瀧 安藤 徳太郎
御陵に花ちりばめし山帽子 梧桐 青吾
海紅豆(かいこうず)
海紅豆咲きたる島の酒屋かな 小園 末子
花弁を立てゝ落下や海紅豆 徳永 球石
擬宝珠(ぎぼうし)【花擬宝珠 ぎぼし】
四五本の花茎のびしぎぼしかな 三戸 良子
擬宝珠に夕べの雨の雫かな 田村 秀子
げんのしょうこ(げんのしょうこ)【現の証拠 忽草 いしゃいらず】
みちみちやげんのしょうこの花も咲き 都築 道子
人親しげんのしょうこの花を持ち 佐藤 欽子
雛罌栗(ひなげし)【虞美人草】
ひなげしの花びらを吹きかむりたる 高野 素十
朝風の虞美人草に荒かりし 伊東 奈美
罌粟坊主(けしぼうず)【罌粟の実】
打あひて風のうれしき芥子坊主 坂口 かぶん
芥子坊主すげなく過ぐること覚へ 三ケ尻 とし子
金雀枝(えにしだ)
えにしだの花の吹かれて漂へる 本田 空也
薔薇(ばら)【さうび】
夕風や白薔薇の花皆動く 正岡 子規
我が為に薔薇を買ひ来ぬ淋しき日 東 容子
著莪(しゃが)【胡蝶花 姫しゃが】
独り来る人に逢ひけり著莪の径 坪井 さちお
女には女坂あり著莪の花 後藤 トメ
花橘(はなたちばな)【橘の花】
葵(あおい)【立葵 はなあおい ぜにあおい 天竺葵】
歩み来し人立ちどまる葵かな 平野 山石
テニスの娘水飲みに来る立葵 榊原 弘子
十薬(じゅうやく)【どくだみ】
十薬の匂ふ我が家のくらしかな 衲 敬子
どくだみの白美しき日陰かな 小野 茂川
百合(ゆり)【山百合 姫百合 鬼百合 白百合 鹿子百合
車百合 早百合 黒百合 鉄砲百合 百合の花】
一弁のやゝ反りてより百合開く 阪田 ひで
鬼百合がすめば為朝百合が咲き 岩本 千代
向日葵(ひまわり)【日車草 日輪草】
雨を呼ぶ大向日葵の重さかな 佐藤 峻峰
向日葵の下に現れ隣の子 林 博子
紅蜀葵(こうしょくき)【もみじあおい】
開くだけひらき真昼の紅蜀葵 河野 照代
紅蜀葵たたみて長き夏逝きぬ 池辺 マツエ
黄蜀葵(おうしょくき)【とろろあおい】
日の透きて蝶の影ある黄蜀葵 斎藤 萩女
門入りてとろろあふひの一木かな 大隈 伊津子
射干(ひおうぎ)【桧扇 うばたま】
射干にその花色の蝶の来る 橋爪 靖人
射干の最後の花と思ひ見る 若山 良子
昼顔(ひるがお)
昼顔の沖ゆく淡路通ひかな 高瀬 初乗
手ぶらとは淋し昼顔ひとつ摘む 佐竹 たか
浜昼顔(はまひるがお)
さらさらと浜昼顔の花に砂 澤田 れい
汐風に浜昼顔の花破れ 米沢 和子
夕顔(ゆうがお)
夕顔の咲きふえて咲き減りにけり 金子 九九
夕顔の花となりゆくゆるき渦 林 千恵子
浜木綿(はまゆう)【はまおもと】
浜木綿に美しき海ありにけり 松本 敦子
燈台の黒き石垣浜おもと 木村 都由子
はまなす(はまなす)
母恋しはまなすの実の首飾り 山本 祐三
はまなすの浜に拾ひし石一つ 石山 高子
夏草(なつくさ)【青草】
夏草やみ手をつなげる道祖神 土田 初枝
草の雨して夏草の匂ひけり 井上 隆幸
都草(みやこぐさ)
雨の日はたそがれ早し都草 松下 義幸
都草咲かせ都に遠く住む 沢井 山帰来
踊子草(おどりこそう)【踊草 踊花】
寺裏に踊子草の道ありし 江藤 都月
ぬきん出て踊子草は風の中 釘宮 真由美
文字擦草(もじずりそう)【もじすり】
ありそめし文字摺草や散歩道 青木 秀水
告別の列ねじり花咲く側を 田中 美代子
鋸草(のこぎりそう)【はごろもそう】
孔雀草(くじゃくそう)【蛇の目草 波斯菊】
釣鐘草(つりがねそう)【螢袋 カンパニュラ】
貨車の音重し釣鐘草の昼 二宮 美代
垂れて咲く螢袋は雨の花 澤村 芳翠
月見草(つきみそう)【待宵草】
佐渡のはや暮れてをりたる月見草 大山 清治郎
月見草川の流れの合ふところ 是木 朱夏
含羞草(おじぎそう)【ねむりぐさ】
風ふれし葉を半たたみ含羞草 向井 曽代
辞儀させて上手なおじぎ草を買ふ 山田 無吾
絹糸草(きぬいとそう)
風知草(ふうちそう)
風知草らしき姿に吊られけり 伊東 奈美
蝿取草(はえとりぐさ)【蝿捕草】
若揚羽はへとりぐさを離れざる 村上 方咫
夜店いま蝿捕草のよく売るる 平野 孝純
蚊帳吊草(かやつりぐさ)
窓の下かやつり草の花もあり 高野 素十
かやつり草裂きて悲しみ新たなる 菊池 輝行
金魚草(きんぎょそう)
美しき蝶きてとまる金魚草 岩島 畔水
酢漿草(かたばみ)【酢漿の花 花かたばみ】
酢漿草の種の手に飛び顔に飛び 佐藤 耶重
小判草(こばんそう)
ふくらみし花の触れ合ふ小判草 中川 みさえ
小判草からから振って海へ出し 小山 二虹
虎尾草(とらのお)
虎尾草の思ひ思ひに尾を振りし 斎藤 幸一
布袋草(ほていそう)【布袋葵】
一叢の又離れたる布袋草 友成 ゆりこ
ひしめきて花持つ濠の布袋草 渕野 なぎさ
縷紅草(るこうそう)【るこう】
かくれ蓑にものりうつり縷紅草 佐々 波二
日々草(にちにちそう)
茎赤き日々草に赤き花 藤田 文子
この道も海への道や日々草 渡辺 照子
百日草(ひゃくにちそう)
雨やみし百日草に蝶多し 武田 操
百日草花細りしも引かでおこ 若山 良子
百日紅(さるすべり)【百日白】
天辺に百日紅の第一花 山本 幸代
涙ぐむ百日紅の花の下 播磨 てるみ
千日紅(せんにちこう)【千日草】
おん墓に千日紅の供へられ 大賀 賢子
千日紅千日白の束の中 松本 武千代
麒麟草(きりんそう)
山葵田のこの径が好ききりん草 城戸 和喜子
花魁草(おいらんそう)
立ち止り花魁草を男見る 原山 英士
宵闇の花魁草の紅深め 竹田 節
鷺草(さぎそう)
鷺草の群がり舞へる鉢の上 小笠原 春草子
鷺草のふたつの花の相寄れる 千石 比呂志
梅鉢草(うめばちそう)
蕗(ふき)【蕗の葉】
湖の朝の蕗の濡れてゐし 山内 二三子
蕗の葉の大きくなりて重なりし 倉田 紘文
藜(あかざ)【藜の杖】
軒に干す藜の杖を二三本 竹田 はるを
これよりの藜の杖に託したり 小中 優実代
駒繋(こまつなぎ)【うまつなぎ】
葉に垂るる短き莢や駒繋 丹羽 玄子
駒つなぎ机の上に別れ惜し 土田 初枝
かくれ蓑(かくれみの)
おのがじし落葉をかさねかくれ蓑 山下 輝畝
未央柳(びようやなぎ)【美容柳】
しなだるる未央柳の蕊の雨 江藤 ひで
未央柳こぼれ初めてより頻り 白石 時子
木天蓼(またたび)【天蓼の花】
またたびの目立ち吹かるる白葉かな 本田 空也
蓼(たで)【ほそばたで 蓼の葉】
触るゝ手にこぼるゝ蓼の花重し 山田 無吾
花蓼に一つとなりし水溜り 野中 穂浪
苧(からむし)【真苧 苧麻】
苧も赤のまんまも秣かな 松尾 久子
麻(あさ)【麻の葉 麻の花】
こゝらより川の名変り麻の花 上田 花勢
麻がらを門々売って歩きゐし 岡 はる
帚木(ははきぎ)【はゝきぐさ 帚草】
帚木に影といふものありにけり 高浜 虚子
おのづから形に育ち帚草 伊東 奈美
岩菲(がんぴ)【かにひ 剪夏羅】
吊橋の谿深からず岩菲咲く 井手 芳子
石竹(せきちく)【からなでしこ】
石竹の鉢にあふるる程に咲く 高田 青圃
常夏(とこなつ)
常夏のやさしき花を付けて歩す 天野 菊枝
雪の下(ゆきのした)【鴨足草 きじんそう 虎耳草】
石庭の根締根締の雪の下 江上 多荻
化粧水肌に冷たし雪の下 甲斐 つる子
一ツ葉(ひとつば)
一ツ葉の五百羅漢の岩庇 伊東 文女
一つ葉の一つ一つの雨雫 鈴村 寿満
石菖(せきしょう)【石あやめ】
松葉牡丹(まつばぼたん)【日照草】
日照草いよいよ紅き日の続く 姫野 丘陽
ひゆ(ひゆ)【ひやうな】
滑ひゆ(すべりひゆ)【馬歯ひゆ】
巌松(いわまつ)【巌檜葉 巌苔 岩松】
ひしめきて岩松生ひし山の家 楠原 晴江
夏蕨(なつわらび)
百人の人にもてなす夏蕨 都甲 君子
薄墨で描かれし夏の蕨かな 佐竹 たか
夏桑(なつぐわ)
夏桑に雨の降り来し馬籠かな 井上 史葉
夏桑の上に手を振る別れかな 大隈 草生
夏蓬(なつよもぎ)
ふるがへりたるまゝの葉も夏蓬 佐藤 多太子
夏草となってしまひし蓬かな 相須 ミヤ子
夏薊(なつあざみ)
夏薊五院六坊跡にかな 久保 青山
籠り居の背丈にのびし夏薊 守岡 千代子
夏萩(なつはぎ)【青萩 さみだれ萩】
たかぶれる心なごめり夏の萩 江上 多萩
夏萩や四五日前のはや遠く 都築 道子
夏菊(なつぎく)
夏菊の雨の明るき黄色かな 大山 清治郎
菊好きの母に供へし夏の菊 押谷 隆
蝦夷菊(えぞぎく)【翠菊】
蝦夷菊の花咲く頃は祖母恋し 良藤 き代
矢車菊(やぐるまぎく)【矢車草】
啄木のゆかりの町や矢車草 中 憲子
除虫菊(じょちゅうぎく)
風通るところにも干し除虫菊 浜 秋邨
繍線菊(しもつけ)【繍線花】
しもつけの花に誘はれ訪ね来し 平田 卯芽女
松葉菊(まつばぎく)【さぼてんぎく】
紫蘭(しらん)
紫蘭咲く雨上りたる石に觸れ 香下 寿外
鈴蘭(すずらん)
金婚を祝ふ鈴蘭胸にさし 若土 白羊
鈴蘭の香れる頃に嫁ぎ来ぬ 紺井 緑
こてふ蘭(こちょうらん)
こてふ蘭花の盛りの長きかな 芦苅 タマキ
風蘭(ふうらん)
神の木に風蘭咲くと皆仰ぐ 亀田 俊美
風蘭にふるさと遠き女かな 長谷川 耕畝
筍(たけのこ)【たかうな たかんな 笋 竹の子】
乙訓に住みて筍やはらかし 稲田 桃村
結界に出し筍の皆太し 坂本 丘川
蚕豆(そらまめ)【はじき豆】
蚕豆の葉を吹き鳴らし異郷かな 工藤 信子
蚕豆の早や花もちて遍路みち 片岡 けん
豌豆(えんどう)【莢豌豆 絹莢】
豌豆の花にかくれて姉の泣く 田中 蛙村
豌豆の蔓絡み合ふ力かな 吉川 幸廣
浜豌豆(はまえんどう)【野豌豆】
浜へ出る浜ゑんどうの道ありし 坂本 丘川
集落の果つる岬や浜豌豆 佐藤 耶重
瓜(うり)【胡瓜 真瓜】
曲るだけ曲りし瓜の面白や 山田 敏子
まくは瓜寄せし一山黄色かな 加来 都
越瓜(しろうり)【白瓜 浅瓜】
胡瓜(きゅうり)
のびきりし胡瓜の蔓の空およぐ 小川 木橋
手づくりの胡瓜夕餉のサラダかな 麻生 良昭
紫蘇(しそ)【青紫蘇 紫蘇の葉】
己生えしてゐて紫蘇の濃紫 藤田 文子
紫蘇揉みし指いつまでも紅かりし 立川 満洲野
辣韮(らっきょう)【らっきょ】
辣韮の洗ひ上げたる白さかな 頓所 八重子
嫁がせしあの娘この娘と辣韮漬く 加来 都
玉葱(たまねぎ)
玉葱のころげてありし海女の村 伊谷 詢子
玉葱の晩生の玉のまこと大 片倉 志津恵
夏葱(なつねぎ)【わけ葱】
夏葱の柔らかかりし株分つ 井上 たか女
夏大根(なつだいこん)【なつだいこ】
夏大根畝蒔きて莞爾たり 五十嵐 象円
チャボ一羽夏大根の向ふゆく 村中 美代
茗荷の子(みょうがのこ)
立ち寄りて茗荷の子など見てゆかれ 前山 百年
茗荷の子今摘み頃と思ひ病む 川村 千英
新藷(しんいも)
新藷を供へ虚子塔詣かな 堀 みのる
若牛蒡(わかごぼう)
強き風若牛蒡の葉立ちしまま 岸 栄一
トマト(とまと)【蕃茄 赤茄子】
噴霧機にトマトの匂ひはね返る 河津 春兆
トマト熟る陽の温もりのまゝ喰みぬ 森岡 恵女
茄子(なすび)【なす 初茄子】
良き雨の上りし茄子の美しき 後藤 ミツ
茄子漬けて母の消したる厨の灯 山田 百穂
藺(い)【藺草 燈心草】
いつよりの藺を作りゐる田となりし 山下 尭
みちあけて四角に干せる藺草かな 姫野 丘陽
太藺(ふとい)【大藺 青藺】
真っ直ぐに水突きぬけし太藺かな 小川 真砂二
花つけて傾き易き太藺かな 瀬戸 十字
桑の実(くわのみ)【桑苺】
桑の実の落ち散らばれる飼屋かな 松原 正子
桑の実や幼くて父亡ひし 天野 逸風子
さくらんぼ(さくらんぼ)【桜の実 チェリー 桜桃】
人を敬ひ人を愛してさくらんぼ 遠入 たつみ
さくらんぼ母に甘えし記憶なく 飯田 波津恵
ゆすらうめ(ゆすらうめ)【山桜桃】
ゆすら梅落ちるにまかせ老二人 矢田 勝代
泣かされし記憶ばかりよゆすらうめ 野崎 静子
李(すもも)【酸桃 巴旦杏 牡丹杏】
棚かげをよろこび合ふて李採る 射場 清子
むさし野の一つの宮の李市 中島 藤女
杏子(あんず)【杏 からもも】
杏子もいでくれたる君のことをふと 小林 いまよ
葉がくれに色つき初めし杏見ゆ 山本 綾
実梅(みうめ)【青梅 小梅 豊後梅】
大島の峠の籔の実梅かな 後藤 栄生
青梅の傘にふれしや一つ落ち 佐藤 八山
枇杷(びわ)
高崎山に生まるゝ子猿枇杷熟るる 草本 美沙
枇杷を食うこと楽しみに帰省せる 荒巻 大愚
楊梅(やまもも)【やまうめ 楊桃 山桃】
山ももの大きな影をつくりけり 宮崎 すみ子
やまもゝの実のちらばりし雨の中 武田 操
青柚(あおゆ)【青柚子】
慣れし眼に見えし葉かげの青柚かな 藤井 俊一
夏茱萸(なつぐみ)【たうぐみ】
夏ぐみの庚申塚をかくしけり 畑中 圓子
夏ぐみやくりごとひとつ云ひそびれ 原田 逸子
苺(いちご)【草苺 覆盆子 苗代苺】
晴耕の雨読の苺熟れはじむ 松下 芳子
含む時ふっとかなしき草苺 高山 あき江
木苺(きいちご)
木苺の花の窓辺の暮れ残り 川崎 ヒデ子
木苺の花の白きに雨つづく 外園 タミ女
蛇苺(へびいちご)
蛇苺ふるき社の女坂 浅田 伊賀子
牧場の名残の土手の蛇苺 藤井 紅子
早桃(さもも)【水蜜桃】
早桃を供へて姑のお命日 井上 ゆき
夏蜜柑(なつみかん)
夏みかん土塀に溢れ城下町 北里 千寿
メロン(めろん)
子をつれてメロンの頃に帰り来よ 田島 魚十
安堵の夜メロンの果肉透き通る 栗田 直美
麦(むぎ)【大麦 小麦 麦の穂 穂麦】
麦熟るる村の小店の留守がちに 佐藤 由比古
門前の穂麦の丈の整ひし 秋月 城峰
黒穂(くろほ)【黒ん坊】
黒穂抜く童や顔に黒穂つけ 岩田 麗日
黒ん坊の笛吹き合ひし昔かな 谷口 つね
土用芽(どようめ)
土用芽の赤く伸びたる楓かな 佐藤 芙陽
土用芽につきし小さき蕾かな 高瀬 初乗
草いきれ(くさいきれ)【草蒸す】
海を見て戻る再び草いきれ 中島 木曽子
馬いきれ草いきれなる百姓家 吉田 秋水子
草茂る(くさしげる)
鉄材の積まれしままに草茂る 佐藤 由比古
小雨降る池の小径や草茂る 枌 御許
干草(ほしくさ)【草干す】
高原の干草日和つづきをり 井上 たか女
干草の夜も匂へり牧泊り 有働 清一郎
梅雨茸(つゆだけ)【梅雨菌】
梅雨茸倒れしままの道しるべ 熊谷 秋月
炉に生えし梅雨茸炉火に少し焦げ 打出 たけを
木耳(きくらげ)
木耳の耳が大きく雨の中 刈谷 次郎丸
木耳の蓆に乾き湯治宿 新島 艶女
黴(かび)【黴の香 黴げむり】
本尊にひれ伏す黴の畳かな 滝口 芳史
黴の香の漂ふ御堂開きけり 村山 三郎
蒲(がま)【蒲の花】
蒲刈って流れの水の現れし 森田 たえ
蒲の穂(がまのほ)
一面の蒲の穂むらに風渡る 新野 祐子
蒲の穂のどれもつんつんつんつんと 中村 志ま
水葵(みずあおい)【水葱 なぎ】
風波の池のほとりの水葵 矢田 豊羊
舫ひある沼舟一つ水葱の花 赤羽 岳王
睡蓮(すいれん)【未草】
水明りして睡蓮の百花かな 森山 素石
睡蓮や水が濁れば影濁る 松下 義幸
蓮(はす)【蓮華 はちす 蓮の花 鬼蓮】
富士川の宿場町古る蓮田かな 井上 史葉
月いでて涼しき蓮の広葉かな 本多 勝彦
萍(うきくさ)【浮草 根無草 あおうきくさ ひんじも 萍の花】
萍のふくれ上りて堰を落つ 瀬戸 十字
流れくる浮草に花咲いてゐし 真鍋 貞
蓴(ぬなわ)【蓴菜】
蓴とる舟の蓴を押し分けて 塩月 能子
蓴採る手に萍をつけしまゝ 小山 二虹
蛭蓆(ひるむしろ)【蛭藻】
山の日の俄かにまぶし蛭蓆 瀬戸 十字
引き寄せし菱につきくる蛭蓆 大野 多美三
青葭(あおよし)
対岸の青葭原へ渡し舟 松吉 良信
河骨(こうほね)【かわほね】
河骨の花の上なる流れかな 岩崎 すゞ
河骨のおもむろに葉を開きたる 衛藤 芙代子
沢瀉(おもだか)【花慈姑】
慈姑田の咲き登りたる花慈姑 中山 都
浅沙(あさざ)【浅沙の花 花蓴菜】
細き茎あげしあさざの花平ら 山崎 朝日子
ひしめきて日に真向ひし花浅沙 児玉 菊比呂
藻(も)
水底の蝦藻に小エビ渡り跳ぶ 日高 義治
流れ藻の緩やかにして水匂ふ 篠崎 代士子
金魚藻(きんぎょも)
金魚藻の金魚色して照る最中 国本 みね
荒布(あらめ)【黒菜】
打ち揚げし荒布拾ふも掟あり 林 南歩
昆布(こんぶ)
根昆布干す島の女もクリスチャン 穴井 梨影女
海蘿(ふのり)【布海苔】
布海苔篭岩の窪みに置きかへし 桶川 皆舟
ふつふつと布海苔を煮るや左官妻 佐藤 重子
梅松(みる)【水松】